黒澤明&三船敏郎初タッグ名作映画が舞台で蘇る

『醉いどれ天使』

 三池崇史、桐谷健太、高橋克典、髙嶋政宏と名前が並ぶとド派手な新作アクション映画の製作発表かと思ってしまうが、実は舞台である。日本が世界に誇る名監督黒澤明と、黒澤作品で数多くの主演を務め、やはり世界中の映画人たちから〝MIFUNE〟とリスペクトされている三船敏郎が初めてタッグを組み、1948年に公開された『醉いどれ天使』。新人俳優だった三船敏郎が出色の演技を披露し、一躍スターダムにのしあがったメモリアルな映画で、この先、黒澤&三船コンビで多くの傑作映画が誕生することになる。こけた頬で眼光をギラギラさせた三船のスチールを観ると、まるでブライアン・フェリーのようにカッコ良かった。30年以上前に、三船さんにインタビューをさせていただいた折、三船さんに頼んで、『醉いどれ天使』の三船さんのスチールを表紙に使わせてもらったことを思い出す。その『醉いどれ天使』が舞台化され、前述の三池崇史が演出を手がけ、桐谷健太、高橋克典、髙嶋政宏が共演するというわけである。

 てっきり初の舞台化だと思っていたところ、配られた資料を見ると、映画が公開された半年後に、ほぼ同じスタッフとキャストが集結し、舞台作品として上演された記録が残っているという。当時の労働争議で大きく揺れていた映画界では、多くのスタッフや俳優たちが生活困難に陥っており、そんな彼らを救うために黒澤を中心に劇団が編成され、全国巡業が催されたという。近年、偶然にも三船プロダクションが、長いこと眠っていた舞台台本を発見した。舞台台本からは、黒澤が逆境をはねのけ、映画同様に舞台としても最高の作品を創り出そうとした熱い想いが伝わってくるという。今回の舞台化には、黒澤と三船をリスペクトし、映画『醉いどれ天使』を愛するキャスト、スタッフたちの黒澤明の想いを受け継ぎたいという強い想いが込められている。それにしても、黒澤明と三船敏郎の舞台、観てみたいものだ。

 2021年の舞台版、新生『醉いどれ天使』の脚本を手がけるのは、劇団モダンスイマーズ旗揚げに参加し、劇団の全公演の作・演出を務め劇団公演『ビューティフルワールド』で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞し、そのほかに『まほろば』で岸田國士戯曲賞を、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』で鶴屋南北戯曲賞などを受賞している蓬莱竜太で、製作会見では演出の三池崇史、桐谷健太はじめ出演者全員がこぞって、すばらしい脚本と絶賛していた。当の蓬莱は「映像をどういうふうにすれば演劇として創ることができるのかを意識した」そして「演劇の『醉いどれ天使』になればいい」と。そのためには、演劇の基本中の基本であるモノローグ(=独白)を多用し、上手(かみて)と下手(しもて)で同時多発的に物語が進行するという演劇的手法での見せ方ができる脚本を書いたと言う。

 三池崇史は、『夜叉ヶ池』『座頭市』『六本木歌舞伎』シリーズなどで舞台演出も手がけているが、「このすばらしい脚本で演じる人、観ている人の心が揺れなければ、それは演出の自分の責任である」と緊張しながらも、「本業の映像ではないので思い切り全力でいってみたい」と意欲も見せる。「これだけすごいメンバーが集まったので、それぞれ違った生き方をしてきた俳優たちが明治座という劇場で交錯する様を観てもらいたい。演じているんだけど、心がむき出しでぶつかり合うような舞台にしたい」と意気込みを語る。

 そしてキャスト陣たちも今回の舞台で、自分自身に大きな期待を寄せているようだ。映画で三船が演じた肺病に侵されたヤクザを演じるのは桐谷健太。「このメンバーなら最高傑作になる」とスタッフ、共演者に大きな信頼を寄せながら「その時代に生きていた人たちのエネルギーがあふれている映画に負けないように、それを超える気持で舞台に臨み、惜しみなく力を出し切りたい」と12年ぶりの舞台出演に気力がみなぎる。志村喬が演じた呑兵衛の医者には高橋克典。「コロナ禍ではあるが、人々の体温が感じられる距離でぶつかり合い寄り添い合う物語を、今の自分だから演じられる何層にもいろんなものを抱えている複雑な自分自身を投影して、自身の中にあるものを出しながら演じられるのではと思っている」と役に自身を重ねる。桐谷の兄貴分を演じる髙嶋政宏は、『王様と私』『エリザベート』などでも、堂々たる舞台人の存在感を示しているが、「念願の三池さんとの仕事が、まさか舞台で実現するとは」と興奮を見せながら「下北沢の劇場のような小劇場の匂いが香り立つ脚本の芝居を、明治座という大劇場で上演する面白さを感じる。昭和の匂いが濃いすばらしい作品の予感」と言葉も弾む。

 共演の女優陣たちもそれぞれの想いで作品に向き合う。今回2度目の舞台となる佐々木希は、「人間が深いところまで描かれている蓬莱さんの脚本で、三池さんの演出により人間くさい世界観にどっぷり浸ることができるのが楽しみ」と新たな世界に身を置くことを楽しんでいるようだ。田畑智子は『夜叉ヶ池』で三池崇史と、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』で蓬莱竜太と一緒の舞台での仕事を経験済みだが、2人とのタッグの今回の舞台で、どんな色彩の昭和の女性を演じてみせるのか、ワクワクさせられる。AKB48を卒業後は、映像、舞台と着実に女優としてのステップを踏んでいる篠田麻里子もまた、「その時代に生きている人たちが確かにそこに存在しているのが映画で魅力的に感じられたように、この舞台で、しっかりとその時代に生きる人になりきりたい」と、女優としての欲を見せるのも頼もしい。俳優たちが真っ向から対峙する舞台を観る楽しみに、キャストの組み合わせがあるが、今回それぞれに舞台も経験しているが映像作品でのイメージが強いメンバーが揃ったことで、従来の舞台とはひと味違う、新鮮な魅力が発見できる舞台になるのではとの期待も高まるところである。間もなく初日の幕が上がる。

撮影:田中亜紀
撮影:田中亜紀

原作:黒澤明 植草圭之助  脚本:蓬莱竜太  演出:三池崇史
出演:桐谷健太 高橋克典 佐々木希 田畑智子 篠田麻里子/髙嶋政宏
渡辺光 黒石高大 髙橋里恩 西沢仁太 安藤瞳 菊池日菜子 澤竜次
テイ龍進 染谷俊之/原金太郎 陰山泰 梅沢昌代


東京公演
〔公演期間〕9月5日(日)~9月20日(月・祝)
〔会場〕明治座(東京都中央区日本橋浜町2-31-1)
〔問〕明治座チケットセンター03-3666-6666(10:00~17:00)


大阪公演
〔公演期間〕10月1日(金)~10月11日(木)
〔会場〕新歌舞伎座(大阪市天王寺区上本町6丁目5番13号)
〔料金(税込)〕S席14,000円、A席7,000円、特別席14,500円 ※未就学児入場不可
〔問〕新歌舞伎座テレホン予約センター06-7730-2222(10:00~18:00)


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