世田谷育ちの主人・中野治生さんが笑顔で「よく探しましたね」と声をかけてくれて、気持ちがほぐれ一気に喉が渇いてきた。まずは、生ビールで喉を潤す。1991年のオープンだが、下北沢に住んでいても、この店の存在を知らなかったという客が多いらしいのだ。
「平政のいいのがありますよ」という主人の言葉にしたがい平政の刺身を注文。となれば、日本酒だ。珍しく西の方の日本酒が多いようだ。横田さんは香川の純米酒〈悦凱陣 (よろこびがいじん〉をチョイス。生量が少なく、古くからのなじみの店にしか卸されていないらしい。お通しには、夏場には珍しい青菜のつるむらさき。さらに、暑い日にはもってこいの水なすの味噌ぞえ、そして焼あぶらあげを注文。京都のあぶらあげにおろし生姜と葱と鰹節をのせ醤油をまわして熱いうちに食べる。


この店の料理はいずれも、酒飲み好みの肴が多い。つまり、いつもの安心できる料理なのだ。「平政も酒が進むし、水なすもみずみずしくてフルーツっぽい味ですね。焼あぶらあげもうまい」と横田さん、同じ世田谷育ちということで町談議で主人と話が盛り上がるうち、文学座の先輩俳優である角野卓造さんがなじみ客だとわかる。
「僕の初舞台が角野さんと一緒だったんですよ。いろいろと指南していただきました。太田和彦さんの本のポスターが貼ってありますが、太田さんもいらっしゃるんですか」と横田さんが訊ねれば、「角野さんに太田さんを引き合わせたのはこの店なんですよ」と主人。下北沢は俳優、ミュー ジシャン、写真家、編集者など、主人いわく文化に携わる客が集まる町で、この店にはそのなかから酒好き、うまい肴好きだけが通ってくると。
〆には下北沢の酒屋と九十九里のオーシャンビールで造っていて、下北沢の飲み屋でしか出していない 〈下北澤ビール〉を飲みながら、麺と葱だけのシンプルな支那そばを注文した横田さんだった。

主人・中野治生さんはサーフィン歴42年。天井にはサーフボードが飾られている。酒飲みを惹きつける料理の一部を紹介すると、平政、平貝、鮪、カツオ、生ウニなど数種類の刺身をはじめ、焼あぶらあげ380円、水なす味噌ぞえ650円、馬刺し1,200円、馬肉のタルタル1,500円、銀ダラ煮 付1,200円、ホタテの焼サンガ800円、合鴨じぶ煮900円、笹身の丸干し480円、炙り角煮890 円、地鶏の山椒焼780円、地鶏レバーのおろし ポン酢580円などなど。〆には支那そば630円、稲庭うどん840円、鮪丼1,500円、玉子ぞうすい 680円など。
両花 RYŌHANA
[住〕世田谷区北沢2-34-8KMビル2F 〔問〕03-3468-6456 〔営〕17:30~深夜0:30L.O.、祝日17:00~ 23:00L.O. 〔休〕日曜(暦で日・月曜連休の場合は両日休み)