夜の芝居を観た後は、うまい酒と料理が欲しい。本多劇場の近くに事前に目をつけておいた店があった。駅南口改札から1分もかからないというのもありがたい。店は地階にあるのだが、1階のウインドウ内に置かれているお品書きのメニューを見ただけで、胃袋を掴まれてしまったのだ。創業から25年になる〈味楽〉だ。階段を下りて店の入り口に向かう通路の壁には、〝演劇の町〟らしくさまざまな芝居や映画のポスターが所狭しと貼られている。

店に入ってまず目に入るのは、壁を埋め尽くす品書きの多彩さだ。目移りして、注文するのも迷ってしまうが、思わず顔がほころんでしまう。開店直後だというのに、テーブル席にも、カウンター席にもすでに先客がいる。先陣を争うほどの人気店だとわかる。店主の島田章吾さんは、下北沢のまさにここが生家である。以前は東北沢で店をやっていたらしい。島田さんに季節の料理を作ってもらうことにした。
まず、春の野菜6種類が並んだ目にも楽しい一皿。菜の花からし和え、新ふきの青煮、山うど酢味噌、芽くわいのからあげ、干し柿とクリームチーズ、せりの胡麻和え、と素材を生かしたそれぞれの料理で供される。

藤田さんは一つひとつの料理を島田さんから訊ねながら、口に運び、おいしいの連発。藤田さんの顔見知りの演劇人がこの店の常連だとわかり、島田さんとの話もはずむ。精悍な面立ちの店主が時折相好を崩すのは、まさに値千金のチャーミングさ。
焼き筍は鹿児島産の新モノ。れんこん万頭の椀物にはカラシが添えられている。そして一口サイズのあじ寿司。いずれも店名通り、おいしい料理を楽しむ店ならではの料理で、期待を上回る。おいしい料理と酒で、舌もなめらかになり芝居話になかなか幕を下ろせない。


毎日通っても食べつくせないほどの多彩な料理の数々。こんな店がある下北沢の住人は幸せだと感じてしまう。胃袋を刺激する料理の品々をできるだけ紹介してみよう。天然かわはぎうす造り、天然真鯛昆布〆、活ゆで佐島のたこ刺身、しまえびは刺身に塩焼、特上生うに、赤貝ぬた、たいら貝は刺身、炙りにバター焼か磯辺焼、柳かれい風干し、甘鯛ひと塩、穴子山椒煮、子持ちやりいか煮付にバター焼、地蛤の天ぷらに吸物、釣りあじであじフライ、和牛ロースステーキ、そら豆と海老の天ぷら、筍ごはん、さば棒寿司などなど。料金は蒸しあわびで1,800円から2,400円といったところで、推して知るべし。それほど若い世代がいないという客の年齢層からしても、大人の舌を悦ばせる店なのである。料理は季節によって替わる。

うまいもの 楽味
〔住〕世田谷区北沢2-12-11 三井住友銀行B1F
〔問〕03-3410-6577
〔営〕17:00~23:00L.O. 〔 休〕月曜、第3日曜