若松 宗雄
音楽プロデューサー
「旅館 箱根上の湯」「スイッチバックカフェ」「箱根レコーズ」オーナー
◆人気のスポットは「コロナ禍」があったから生まれた
レコード会社、CBSソニーのプロデューサーとして歌手・松田聖子を発掘し大スターに育てた私の趣味は、時間があれば遠くまで車を飛ばして「不動産物件」の見学に行くことでした。とある土曜の昼下がり、新宿のリゾート販売会社にふらっと立ち寄り、物件ファイルの中から目についたのが、箱根の大平台にある「桜渓荘」でした。かつては日本棋院の箱根寮として多くの棋士にも親しまれた宿でしたが、手ごろな値段で売りに出されていたのです。時おかず現地に行ってみるとずいぶん廃れていましたが、箱根登山電車のスイッチバック地点にあり、温泉も良質で、駅からも近く「ここは買いだ」と直感的にひらめいたのです。音楽業界の人たちが集まるサロンで「若松さんは箱根に縁がある」と、易学を観る方に言われたことも記憶に刻まれていました。
地元の建設会社にリフォームを依頼し、外観は和風の素朴な趣に、室内はヨーロピアン・アンティーク家具が調和する旅館に生まれ変わりました。
そうこうしているうちに2020年3月から新型コロナ感染症が席巻しました。言うまでもなく、観光業は大きな痛手を受けましたが、国の救援制度の一つに旅館やホテルのコロナ対策に活用できる補助金制度がありました。活用するためには、新しい業態を始めなければなりません。そこで箱根登山電車が走る姿を見ながら寛ぐことのできるカフェを作ろうと企画し、地元の銀行の協力を得て、2021年9月26日に「スイッチバックカフェ」が誕生しました。
おかげさまでオープン以来お客様が絶えません。すぐ近くで見られる登山電車が交互にスイッチバックする光景が、多くのお客様に喜ばれるのです。この前は遠方から電車好きな子供たちに連れられてきたご一家もいました。リニューアル時に協力してくれた箱根登山鉄道の社員さんもカフェの常連さんです。
新型コロナウイルス感染症の影響を被ったために、新しいカフェを始めたわけで、もしコロナ禍がなければ、「スイッチバックカフェ」は誕生していません。