◆お客様がホテルを育ててくれている、という思い
わたくしのホテルマンとしてのスタートは、派遣会社の紹介で芦ノ湖畔の「山のホテル」のベルガールの仕事に携わったことです。高校を卒業し、自分が何の仕事をしたいのかわからないまま、上京してきました。学生時代に俳優の松方弘樹、高嶋政伸、紺野美沙子らが出演したテレビドラマ「HOTEL」を観てはいましたが、ホテルの仕事がどんなことをするのか未知の世界でした。そんな時、箱根にあるホテルということに惹かれ、1年間の派遣契約で「山のホテル」に向かったのです。仕事を始めた5月は、ツツジの季節でとても忙しい時期でした。雰囲気もよく、環境が自分にあっていたのかもしれません。紹介されたのが都会のホテルだったら続かなかったかもしれませんが、相性がよかったのでしょう。
ホテルマンとして長く仕事ができたのも、お客様のおかげだと思います。みなさんリゾートにいらしているので、リラックスされ、温和で優しい方ばかりです。わたくしが勤務した小田急リゾーツの経営する「山のホテル」も、「はつはな」も、「箱根ハイランドホテル」もリピーターの方が多く、いらっしゃったお客様から以前投宿された時のお話をお聞きする機会もあって、歴史的価値を再認識し、ホテルに対する思いも変わっていきました。お客様をお迎えし、運営をしているのは私たちですが、お客様がホテルを育ててくださっていることを学びました。
「はつはな」の支配人になって、「箱根温泉女将の会」にも参加するようになると、老舗の女将さんたちから箱根のことや接客の知識などいろいろなお話を伺う機会が増えましたし、温泉旅館組合の方と会う機会も多くなりました。ここ何年かにわたり大涌谷の噴火や、台風による被害、コロナ禍など多くの被災がありましたが、若手が動き出して、箱根が一丸となってきたことを感じます。
◆心と五感が満ちる静かなときを過ごす定宿として
準備室では、50代、60代の方をターゲットにしていましたが、リニューアルオープン後のお客様は、想像していたより若く4、50代の方が多いです。その年代の人たちは落ち着いたお気に入りの定宿を探す頃だと思います。一方、旧はつはなのお客様の中には、湯坂山が見えて、須雲川が流れる、この景色が本当に好きで、以前利用していた部屋とほぼ同じ場所を予約されるお客様も多いのですが、その方たちと同様に新たなお客様が定宿にしてもらえるようにしたいと思っています。
箱根には外資系のホテルの進出も多くなりました。以前は海外からのお客様は年間を通して10%ほどだったのが、リニューアル後の「はつはな」は25%くらいになりました。海外からのリピーターさんを増やすことも心掛けたいです。旅先のホテルでゆったりする感覚は、欧米人の方が上手なような気がします。朝食を食べてすぐチェックアウトというのは寂しいですから、チェックアウトタイムを延長する新たなプランを夏に向けて作っています。3年で基盤を作りたいという目標でしたが、まだまだやらなければいけないことも多いですし、改善、修正することもたくさんあります。「心と五感が満ちる静かなとき」、このコンセプトに近づけるよう、お客様が自然体で過ごしていただける、つかず離れずのおもてなしを極めていきたいと思います。(談)
奈須 由美(なす ゆみ)
宮崎県出身。「小田急山のホテル」に派遣社員として勤務後、小田急リゾーツ入社。山のホテル、ホテルはつはな、箱根ハイランドホテル勤務後、「はつはな」準備室を経て、2022年9月より「はつはな」支配人現在に至る。
はつはな
[住]神奈川県足柄下郡箱根町須雲川20-1
[問]0460-85-7321
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