new 20.06.04 update

表紙で振り返る「コモレバ」の10年(後編)

絹のような声と
舞踊のように
流れるような所作の美しさ

第12号
藤村志保&大森寿美男(2012年6月)

 12号に登場していただいたのは、やはり大映出身の藤村志保さん。私が藤村志保という女優の名を知ったのは、小学生のころ父に連れられて観た映画『斬る』(監督:三隈研次、主演:市川雷蔵)だった。オープニングシーン、しずしずと廊下を歩く奥女中の足元をカメラは追う。そして御女中はある部屋の襖を開け「お家のため、お命を頂戴いたします」と寝ている殿の愛妾に刃を振りかざす。逃げまわる側室、短刀を手に追いかける御女中。そこにタイトルクレジットが重なる。そしてついに御女中は側室を討つ。この御女中が藤村志保だった。恐かった。小学生の記憶にも、このシーンは鮮明に刻まれた。その後、多くの作品で藤村さんと出会うなかで、その声にも魅せられた。そして藤村さんを思うとき、少しは芝居がわかってきた私の脳裏には、覚悟の女性を演じる藤村さんの姿がいつも浮かぶ。テレビドラマ「幻花」で立ち腹を切る足利義政の愛妾今参局、大河ドラマ「風林火山」での今川義元の母・寿桂尼。それらの女人を通して藤村志保という女優のイメージを勝手に創りあげていた。

 実際にお会いした藤村さんは、着物姿の凛凛しさ、美しく化粧を施したような声の品格はそのままに、気配りがきき、時折お茶目な表情もみせてくれるすばらしくチャーミングな女性だった。お相手は「風林火山」の脚本を手がけた大森寿美男さんで、お2人は3度ドラマでご一緒した仲。撮影の数日前、大森さんから電話がかかってきた。「藤村さんがお着物なら僕も着物にしようと思うのですが」と。藤村さんからプレゼントされた着物に一度も袖を通す機会がなかったので、ぜひ藤村さんに着物姿をご披露したいということだった。「着物を着るにはどうすればいいのでしょうか、何をそろえればいいのでしょう」と、私も着物に通じてはいなかったが相談に乗ることになり、当日は日本舞踊を嗜む友人に着付けで来てもらった。撮影場所は当時巣鴨にあった、藤村さんの妹さんが女将を務める「日本料理 すがも 田村」で、「なんだか息子のお披露目に付き添う母親の心境だわ」と、藤村さんは大森さんにかいがいしく世話をやいていた。大森さんは「藤村志保さんには大いなる人間力を感じます」と讃え、「素晴らしい俳優と作品を創る喜びを教えてもらいました」と、藤村さんとの出会いは一生の宝物だと、昨年は朝ドラ「なつぞら」でも筆を揮った。

 

少年時代からの
憧れのお姉さん
星由里子さん

第13号
星由里子&北原照久(2012年9月)

 2018年5月、西城秀樹さんの死に続き、星由里子さんの訃報が伝えられた。だが、テレビ時代のスターアイドルである〝ヒデキ〟のニュースに比べて、星さんの死は、テレビのワイドショーなどではあまりにもあっさりと報じられ、少年時代を『若大将シリーズ』で過ごした身にとっては、寂しかった。表紙の銀幕女優シリーズには、星さんにもぜひとも出ていただきたいと思っていたが、星さんは京都暮し。この撮影だけのためにお出かけいただくことは難しいかな、と考えていた折に好機が訪れた。2011年度の菊田一夫演劇賞で特別賞を受賞した司葉子さんへお祝いの花束贈呈者のゲストとして会場に星さんを見つけた。授賞式の後のパーティで、料理を召し上がっている最中の星さんに失礼ながらも図々しく声をかけたのだ。そして思いを伝えた。その場では談笑するに終わった。その後、正式に事務所へ依頼をさしあげ、東京の舞台に出演中の楽屋にも、幕間にまたまた図々しく大胆にも馴染みのレストランのシェフに作ってもらった弁当を楽屋見舞いにご挨拶にもうかがった。星さんは私の暴挙にあきれることなく歓待してくださった。そうして、第13号の表紙に登場いただくことが実現した。

 

 撮影場所に現れた星さんは開口一番「粘り勝ちね」と、いらずらっぽい笑顔を見せた。お相手は加山雄三さんが人生の指針だと言う、ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として知られる北原照久さん。〝若大将〟の恋人〝澄ちゃん〟を演じた星さんは、北原さんにとっても〝心の恋人〟という存在。気分はすっかり若大将、とご本人を前に感激しっぱなしだった。その後も、星さんが東京の舞台に出演なさる際には出かけた。時折、メールのやりとりもさせていただくようになっていた。星さんの病気のことなどまったく知らなかった。だから訃報は寝耳に水で、にわかには信じ難かった。悲しみは後からじんわりと押し寄せてくる。

1 2 3 4 5 6

こちらの記事もどうぞ
映画は死なず

新着記事

  • 2024.10.10
    森美術館「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰って来...

    応募〆切:10月31日(木)

  • 2024.10.10
    戦後日本映画界に颯爽と現れるや時代のヒーローとして...

    石原裕次郎「赤いハンカチ」

  • 2024.10.09
    都会の喧騒に佇むゲストハウスに集う人々の心温まるヒ...

    応募〆切:11月5日(火)

  • 2024.10.09
    10月14日の「鉄道の日」をはさんで、海老名のロマ...

    10月9日(水)~11月18日(月)

  • 2024.10.09
    女優・高峰秀子生誕100年、ウェディングドレス姿が...

    10月5日(土)~1月13日(月・祝)

  • 2024.10.08
    釈放当日─世紀の瞬間の舞台裏を撮った、1台のカメラ...

    応募〆切:10月20日(日)

  • 2024.10.08
    東京ステーションギャラリー「テレンス・コンラン モ...

    応募〆切: 10月31日(木)

  • 2024.10.08
    秋バラが間もなく見ごろを迎える「谷津バラ園」 谷...

    京成電車下町さんぽ「谷津」

  • 2024.10.07
    「世界の持続可能な観光地TOP 100選」第1位の...

    箱根彩彩

  • 2024.10.03
    令和の今もコーラスで親しまれるH2Oが昭和58年リ...

    H2O「想い出がいっぱい」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!