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表紙で振り返る「コモレバ」の10年(後編)

カラッとした
清々しい男前の
山本陽子さん

第16号
山本陽子&辰巳琢郎(2013年6月)

 着物姿に定評があり、旧き良き時代のどこか古風な日本女性のイメージ。その役柄からこんな勝手なイメージを描いている人は少なくない。山本陽子さんである。実はせっかちで、陽気で、行動的な女性である。車を運転すれば、相当なスピードマニアだという話も、今では有名である。ご一緒していただいた、俳優の辰巳琢郎さんは、山本さんと20年以上の親交があり、山本さんの〝素顔〟に接してきたお一人。そして、山本さんにいくつもの賛辞を贈る。「淑やかさもあれば、小股の切れ上がった粋も備えたいい女」「美しくて近寄りがたいのに、実は男前のいい女」。そして「どこを探してもこんなにいい女はいない」と言い切る。山本陽子という女優が50年以上も第一線で活躍しているのを、辰巳さんの言葉が裏付けしているように思えた。

 

 テレビドラマ、映画、舞台と仕事でもそうだが、OL時代の仲間たちとは今も定期的に集まりゴルフや麻雀、旅行を企画し、家ではてきぱきと断捨離もこなす。恐らく、回遊魚よろしく動いていないといられない性分なのであろう。そして思い切りよく人生を生きている人から伝わってくる清々しさが撮影現場にも漂っていた。

この人に
微笑まれたら
無上の幸せ

第17号
八千草薫&山田太一(2013年9月)

 やはり創刊時からお願いをさしあげていた八千草薫さんにご登場いただいたのは創刊から4年目の第17号だった。82歳の女優は、年に数本の映画にテレビドラマ、そして舞台にも精力的に出演していた。この日も、90歳で詩人になった柴田トヨさんを演じた主演映画『くじけないで』の公開を控えていた。ケーブルテレビの映画専門チャンネルなどで昔の映画や、昭和の時代のテレビドラマを放送していて八千草さんをよく見るが、20代、40代、60代、いずれの八千草さんもその都度美しい。いずれの年代の八千草さんも、すべてチャーミング。20代の八千草さんを見て、「若かったね」と感じるのではなく、見る人の中で20代の八千草さんも80代の八千草さんも同時に存在しているのである。〝女優・八千草薫の不思議〟である。見る人にこれほど印象を変えることなく存在している女優も珍しい。あの喋り方、声のトーン、向けられる微笑み、実際お会いする八千草さんは、スクリーンで見た女優そのものだった。テレビ「やすらぎの郷」で印象的だった「ねぇ」と微笑まれたときには、とろけてしまいそうだった。

 

 ご一緒していただいた脚本家の山田太一さんは舞台『ラヴ』、テレビドラマ「岸辺のアルバム」「シャツの店」など数々の作品で八千草さんと組んでいる。そして60代の八千草さんは、老境ながら人生でいちばん美しいころといえるのではないかというインスピレーションを山田さんに与え、「いちばん綺麗なとき」というドラマを書かせた。山田さんは「とてもとても代りがいない人なのである」という。八千草さんには第31号でも、「やすらぎの郷」に出演中の浅丘ルリ子さん、加賀まりこさんと一緒に表紙にご登場いただいた。ドラマ撮影中のスタジオでの取材で、八千草さんだけまだ撮影が残っていたが、気を遣ってくださって、撮影に協力してくださったときは、大女優の優しさに心が熱くなった。2019年10月の八千草さんの訃報には大きな衝撃を受けた。もしかすると、この人は不死身で、女優として永遠に私たちを魅了し続けるのだと思い込んでいたのだ。

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Tags: エッセイ

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