25.05.19 update

芸能一家に生まれたお嬢様女優で、1970年代のテレビドラマで清純派ヒロインとして主役の顔となり、数々の倉本聰作品でも印象深い 仁科明子(女優)


 と、こうしてみてみると倉本聰作品に数多く出演している。75年に放送された若尾文子主演、藤田まこと、岸田今日子ら共演のコメディ・タッチのドラマ「あなただけ今晩は」も倉本聰脚本だった。

 76年の石原プロモーションと日本テレビ制作の「大都会 闘いの日々」も、倉本聰がメイン脚本家であり、そのほか斎藤憐、永原秀一、大津晧一ら脚本陣が充実していた。仁科明子は、警視庁の刑事である渡哲也の妹役で、明るく人懐っこい性格だが、刑事である兄に対する報復で暴力団に輪姦されたという過去があるという、いままでにない役柄だった。石原裕次郎も新聞社社会部のキャップ役で出演しているほか、宍戸錠、佐藤慶、寺尾聰、篠ひろ子らも出演しており、神田正輝の俳優デビュー作としても記憶されている。

 さらに、前夫である松方弘樹と知り合うきっかけとなった74年のNHK大河ドラマ「勝海舟」のメインの脚本家を手がけたのは倉本聰だった。主演の渡哲也が病気で降板せざるを得なくなり、途中から松方弘樹が引き継ぎ勝海舟を演じるという、異例の主役交代劇があった。ちなみに仁科の父・岩井半四郎も出演している。

 
 仁科明子がファースト・キスを体験したのはドラマの中だったという。「私のファースト・キスはドラマの中だった。十九歳のとき『愛よ、いそげ!』というドラマで、相手は恋人役の篠田三郎さん」と、自著で回顧している。「愛よ、いそげ!」は72年にTBS系列「木下恵介 人間の歌シリーズ」の枠で放送されたドラマである。同枠ではそのほかにも、寺尾聰、香山美子、草笛光子、森本レオ共演で、エディット・ピアフのために作詞した「ミロール」でも知られるフランスのシンガーソングライターであるジョルジュ・ムスタキの主題歌「私の孤独」が印象に残る74年の「バラ色の人生」、長野県・白馬を舞台に高校生が卒業式の後、男子の帽子の白線とセーラー服のスカーフを結んで川に流すという風習を背景に、〝白線流し〟で結ばれた人たちのさまざまな愛の変貌を描いた沖雅也、五十嵐淳子、細川俊之、倍賞美津子ら共演の76年の「早春物語」と、いずれも記憶に鮮やかだ。この時代のドラマを思い出すと、時を経てもしっかりと人々の記憶に残るドラマ作りがなされていたのだなと思える。特に「早春物語」の仁科明子は、けがれがなく、みずみずしく、美しかった。

 そのほかにも、73年フジテレビ系列で放送の平岩弓枝原作・脚本でヒロインを演じ、ミヤコ蝶々、益田喜頓、加藤治子、有島一郎、山形勲、河内桃子、寺尾聰、浜畑賢吉ら共演のホームドラマ「あした天気に」、同じくフジテレビ系列で放送の平岩弓枝原作・脚本、若尾文子、山﨑努、山口崇、志村喬、沢村貞子ら共演の74年の「女の気持」、74年に開局15周年を迎えたフジテレビの記念作品で、小津安二郎・野田高梧作品集の連続ドラマ化であるオールスター・キャストの趣の「春ひらく」では、笠智衆、東山千栄子、芦田伸介、久我美子、加東大介、草笛光子、児玉清、長山藍子、あおい輝彦、三浦友和らと共に、松坂慶子、あべ静江、仁科明子の当時勢いのあった人気美人女優3人の出演が大きな話題になった。

 次々と記憶がよみがえってきた。76年には主演として小川知子、あおい輝彦、連続テレビ小説「北の家族」のヒロインを演じ後には小説家デビューもした高橋洋子、木村功、久我美子、淡島千景共演によるNHKの連続ドラマ「その人は今…」、日本テレビ系列の長いタイトルシリーズ77年の「華麗なる大泥棒!四丁目の刑事の家の間借人」では、竹脇無我、左とん平、梶芽衣子、山田五十鈴らと共演している。まさにテレビドラマで引っ張りだこの女優だった。74年には、浅田美代子、島田陽子、萩原健一、三浦友和、桃井かおりらと共にエランドール新人賞を受賞している。

 映画で記憶に残るのは石坂浩二が金田一耕助を演じ、市川崑監督がメガホンをとった横溝正史シリーズ第2作の『悪魔の手毬唄』だろう。劇場公開初日に友だちと観に行ったことを思い出す。岸惠子と並び、Wヒロインともいえるきらめきをみせていた。若山富三郎、草笛光子、渡辺美佐子、白石加代子、辰巳柳太郎、山岡久乃、三木のり平、中村伸郎ら豪華な出演陣だった。前年の豊田四郎と市川崑共同監督による映画『妻と女の間』(三田佳子、大空眞弓、酒井和歌子、梶芽衣子共演)で、確かな手応えを感じた市川崑監督のオファーだったのだろうか。

 
 90年代以降は、4回もの大病に見舞われたが現在も現役で仁科亜季子として活躍を続けている。現在、出演映画『真夏の果実』が公開中である(5月17日より全国順次ロードショー)。スクリーンには、仁科明子の清純さに加えて、人生の時を重ねた奥行という味わいの芝居をみせてくれる仁科亜季子が輝いていた。

文=渋村 徹


※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。


マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F


読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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