地元の人々の映画愛に支えられた再開

新型コロナウイルス蔓延問題は、芸術や文化にも大きな影を落としている。劇場、映画館、コンサートホール、ライブハウス、美術館、寄席、そして劇団やさまざまなアーティストたちは活動休止を余儀なくされた。街から劇場や映画館が消えるのではないかと危惧する声も聞こえてくる。6月1日にはロードマップがステップ2に移行し、入場制限や座席間隔の留意を前提に劇場や映画館の再開が可能になったとは言え、感染症対策により、観客は満席時の半数程度である。50パーセントの入場率では「興行として成立しない」と、演劇関係者たちも頭を抱える。芸術、文化発信の最前線にいる人々が、どのように模索し、苦境を脱しようとしているのか、現場の声に耳を傾けてみる。

Vol.2
木下陽香さん(下高井戸シネマ支配人)

2019年9月に亡き父の後を継ぎ経営者、支配人になった木下陽香さん。

木下陽香さんが急逝した父の後を継いで下高井戸シネマの経営者となり、支配人となったのは2019年9月だった。映画業界のことも、映画館経営のノウハウも父から教わる時間もない中での就任だった。そして就任から半年も経たないうちに、起こった新型コロナウイルス蔓延問題。まるでSF映画の登場人物のような体験を強いられる中で、新米経営者である木下さんは、どのような覚悟でコロナ問題と向き合い、いかにして映画館再開へとこぎつけたのか、そして、映画館の経営者、支配人としての現在の心境を語っていただいた。

インタビュー:2020年7月28日

再開できないのでは
という不安

――休館前はどのような状態でしたか。

木下 休館したのは緊急事態宣言発出の翌日4月8日からです。2月下旬くらいからお客様が2、3割くらい少なくなってきていました。通常営業の2、3割減というのは目に見えての落ち込み具合で、その状態が続けば経営が成り立たないという状況で、そのあたりからかなり危機感がありました。4月に入ると本当にひどかったですね。

――緊急事態宣言が発出されていなかったらどうなさっていましたか。

木下 できるかぎり営業は続けていこうとは思っていました。その先どういう流れになるのかもまったく見当もつきませんでしたし、緊急事態宣言が発出されない状況で一回閉めてしまったら、その後、何を根拠に再開すればいいのかまったくわからない状況でしたから。今、再開できているのは、緊急事態宣言が発出されて休館しても、宣言の解除により再開の目処が立てられるという明確な指針があったからです。危うい状況になったからと自主的に休館して、再開の根拠となる危うい状況でなくなるというのがどんな状態なのか、それがきちんと示されればいいですが、ずるずるといってしまうと、二度と開けられないのではと思いました。当館は、会員制度がありますが、会員のお客様も離れていくし、映画という存在自体がお客様の心から消えてしまうというような不安までありました。だからできるだけがんばって映画館は開けていようと思いました。

下高井戸シネマは、昭和30年代前半に<京王下高井戸東映>という東映の封切館として木造平屋建でオープンし、昭和55年に名画座の<下高井戸京王>に変わり、昭和60年にリニューアルして現在の建物になり、昭和63年から<下高井戸シネマ>という館名になった。

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