20.07.22 update

「劇場は演劇人にとって、生活の場です」

Vol.1 本多愼一郎さん(本多劇場グループ総支配人)

本多劇場グループ総支配人 本多愼一郎さん
撮影:高橋利行

「感染リスクを勘案し、スポーツや文化イベント等について今後2週間は中止、延期、規模縮小等の対応」が安倍総理から要請されたのは2月26日だったが、ことはそれでは収まらなかった。4月7日には東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡に緊急事態宣言が発出され、16日にはその対象が全国になった。劇場も休館を強いられ、公演を予定されていた数多くの作品が上演中止となる。東京・下北沢で8劇場を運営する本多劇場グループ総支配人の本多愼一郎さんに休館から、現在にいたるまでの実態を劇場主の立場からうかがった。

インタビュー:2020年7月16日

新型コロナウイルス蔓延問題は、芸術や文化にも大きな影を落としている。劇場、映画館、コンサートホール、ライブハウス、美術館、寄席、そして劇団やさまざまなアーティストたちは活動休止を余儀なくされた。街から劇場や映画館が消えるのではないかと危惧する声も聞こえてくる。6月1日にはロードマップがステップ2に移行し、入場制限や座席間隔の留意を前提に劇場や映画館の再開が可能になったとは言え、感染症対策により、観客は満席時の半数程度である。50パーセントの入場率では「興行として成立しない」と、演劇関係者たちも頭を抱える。芸術、文化発信の最前線にいる人々が、どのように模索し、苦境を脱しようとしているのか、現場の声に耳を傾けてみる。

劇場から人が消えた
空気感の切なさ

――休館の準備はどのように進められたのですか。

本多 3月の公演にかなり影響で出てきていて、公演の継続が難しくなってくるだろうという予測のもとで、それとこの状況下で公演を実施するのは、主催する劇団の方たちにとってもよく思われないだろう、と3月下旬過ぎくらいから4月初めにかけて、公演予定の各劇団の方たちとよく話し合いをした上で、決まっていた公演を中止にしていただき、休館の準備を進めていました。緊急事態宣言という声がまだ聞こえてこない頃に、ゴールデンウイーク後までは、公演を実施するのは確実に難しいだろうと、4月7日に休館宣言をするべく決断して動いていたわけです。緊急事態宣言の発出日と重なったのは偶然なんです。

――休館中はどのように過ごされていたのでしょう。

本多 休館中は、劇場を再開するとき、どのような対策をとれば、安心してお客様に来ていただける環境が作れるのだろうということを毎日考えていました。本多劇場グループの従業員は約30人ですが、休館中は、劇場への出入りさえもはばかられる空気でしたので、スタッフ全員休んでもらいました。私は毎日出社して、劇場の防犯などの見回り作業や電話やメール対応を行っていたという状況です。ただ、スタッフたちとも意識の共有を図るためにメールで確認連絡は取り合っていました。ゴールデンウイーク明けには再開という最初の目処がありましたが、緊急事態宣言発出以来、5月中に予定されていた公演も、中止が決定していき、5月のスケジュールはほぼ白紙状態になりました。完全休館の4月、5月の2か月で中止になった公演は50から60くらいだと思います。6月に入って再開しましたが劇場の稼働率はコロナ以前の3分の1くらいで、現在も8軒すべての劇場が同時に稼働しているというのはない状況です。

――休館の間、一番苦しかったのはどんなことでしたか。

本多 劇場での一切の作業もNGという状況でしたから、劇場に人がいるという空気感というものがまるでなくなってしまって、それは劇場がそこに存在していないかのような空気感で、演劇に携わる身としては心が痛かったですね。多くの人が携わっていろんなことを考え、芝居を創り上げ、お客様に観ていただいて作品を通して交流が持てる場が劇場で、劇場というのは人に集まっていただかないかぎり何も生まれない場所なので、それがすべて中止しなければいけないというのは、寂しいですね。金銭的なダメージも大きく、かなりの収入ダウンになっている状況ですね。

本多劇場は1982年11月3日の「文化の日」に、演劇専用劇場として開場。演目は唐十郎の『秘密の花園』だった。客席数は386席で、下北沢にある本多劇場グループ8つの劇場の中では最大規模。運営する本多一夫氏は、世界一の個人劇場主と言われ、芝居をしたいという人たちを応援したいという気持だけで8つの劇場を一代で築き上げた。
4月7日からすべての劇場を自主的に休館していた本多劇場グループが6月1日に営業を再開した。安全を第一に考え、その一歩としてたどり着いた答えが〝無観客生配信〟という上演形態で、本多劇場グループPRESENTS第一弾として柄本時生、片桐仁、近藤芳正らによるひとり芝居『DISTANCE』を上演した。 撮影:和田咲子

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