22.07.27 update

第8回 すばらしき映画人 東映前会長岡田裕介と吉永小百合



映画は死なず 実録的東映残俠伝

─五代目社長 多田憲之が見た東映半世紀─

文=多田 憲之(東映株式会社 代表取締役会長)

ただ のりゆき
1949年北海道生まれ。72年中央大学法学部卒業、同年4月東映株式会社入社、北海道支社に赴任。97年北海道支社長就任。28年間の北海道勤務を経て、2000年に岡田裕介氏に乞われて東京勤務、映画宣伝部長として着任。14年には5代目として代表取締役社長に就任し20年の退任と同時に取締役相談役就任。21年6月、現職の代表取締役会長に就く。

企画協力&写真・画像提供:東映株式会社


 岡田裕介が亡くなったのは、2020年11月18日。その日の夕方まで、いつものように仕事をしていたから、訃報はキツネにつままれたような話だった。早いもので、今年は三回忌だなと思っていると、岡田裕介との数々の仕事がよみがえってきた。

岡田裕介氏

 初めて面と向き合ったのは、1984年、彼のプロデュース作品、吉永小百合主演の映画『天国の駅 HEAVEN STATION』の宣伝のために、吉永小百合と一緒に、キャンペーンに来札したときだった。今だと大名行列になるだろうが、その当時は会社の幹部クラスは、キャンペーンなどにつき合うことがなく、岡田と吉永小百合と2人だけでやってきた。岡田裕介は当時、フリーのプロデューサーだった。私としては、吉永小百合に会えるというので、ただ嬉しかった。吉永小百合の美しさにポーッとなっていた。サッポロビール園で一緒にジンギスカンを食べたのは、忘れられない思い出だ。

 東映と岡田裕介との関わりは彼がプロデュースした高倉健主演で、吉永小百合が初めて東映映画に出演した(79年のアニメーション映画『龍の子太郎』で声の出演はしている)80年の『動乱』が最初だった。だが実は75年に、岡田が喜八プロダクションのプロデューサーとして初めて制作し、俳優としても出演していた『吶喊』(岡本喜八監督)で北海道支社とは、すでに関わりがあった。配給は、日本アート・シアター・ギルド(ATG)だったが、北海道では、その頃、ATGの作品の専門館もなく、どこにも売れないような状況だった。当時、配給で言えば、東映は圧倒的に力を持っていて、北海道での上映に関しては、ATGに依頼される形で北海道支社が、その他のATG作品も含めてブッキングの手助けをしたという縁があった。私が実際のキャンペーンの手伝いをしたのは『動乱』が最初だった。吉永小百合が東映の映画に出るというだけで、社内でも大歓声があがっていた。観衆の期待度も高かったが、東映でも絶対当てるという意気込みにはすごいものがあった。この作品をきっかけに、吉永小百合は多くの東映作品に出演することになる。

 プロデューサー岡田裕介と頻繁に仕事をするようになった頃、私は営業課長と宣伝課長を兼任するようになっていて、キャンペーンなどで、しょっちゅう会っていた。86年の『玄海つれづれ節』の頃は、まだ宣伝課長ではないが、88年の『華の乱』(深作欣二監督)の頃から宣伝課長として親しく接するようになっていった。『華の乱』は、88年に岡田が東映に入社する直前、フリーのプロデューサーとして手がけた最後の作品だった。

華の乱
与謝野晶子の視点から、大正時代に社会運動、芸術運動、そして愛に命を燃やした男と女の群像を描いた1988年公開の深作欣二監督『華の乱』。主役の与謝野晶子を吉永小百合が演じた他、晶子の師であり、夫となる与謝野寛に緒形拳、晶子が惹かれていく白樺派の作家有島武郎に松田優作、女優松井須磨子に松坂慶子、近代演劇の第一人者島村抱月に蟹江敬三、アナーキスト大杉栄に風間杜夫、女性社会運動家の伊藤野枝に石田えり、婦人公論記者の波多野秋子に池上季実子、晶子の親友であり恋のライバルで、有島武郎と心中する山川登美子に中田喜子と、豪華な顔ぶれがそろった。吉永と優作は、シリーズ第3部となる84年のテレビドラマ「新 夢千代日記」でも共演している。ちなみに、プロデューサーの岡田裕介は、俳優として「夢千代日記」に出演していた。第1回日刊スポーツ映画大賞では、作品賞と主演女優賞(吉永)に輝いた。
©東映

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.04.19
    ゴールデンウイークのお出かけに!麻布台ヒルズギャラ...

    4月27日(土)~5月23日(木)

  • 2024.04.19
    箱根の宿には「おかみ」の行き届いたホスピタリティが...

    杉山留里(箱根おかみの会 会長、「和心亭豊月」女将)

  • 2024.04.19
    国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知...

    京成電車下町さんぽ<1>

  • 2024.04.18
    トヨタのマークⅡでドライブしながら何度も聴いた、稲...

    「ハコバン」から28歳でデビュー

  • 2024.04.18
    韓国アイドルグループ「2AM」のジヌンもバスケット...

    4月26日(金)全国公開

  • 2024.04.17
    渡り鳥のように、4箇所をぐるぐる ─萩原 朔美 ...

    第12回 キジュからの現場報告

  • 2024.04.17
    利発で、正義感が強く、潔癖で、ちょっぴり生意気で、...

    昭和30年後半の大映映画の青春スター

  • 2024.04.11
    相模原出身のロックバンド (Alexandros ...

    相模大野駅の列車接近メロディ

  • 2024.04.11
    下町の太陽、庶民派女優といわれながら都会の大人の女...

    150万枚のミリオンセラーを記録

  • 2024.04.09
    一日限りの『男はつらいよ』シネマ・コンサート開催!...

    6月29日(土)開催

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!