1995年にケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が主宰を務める劇団、ナイロン100℃に入団以来、劇団内外の舞台、映画、テレビドラマなどさまざまな作品で幅広い役柄を演じ、観る者に深い印象を刻み込む俳優・大倉孝二。俳優としてのキャリアも30年を数える。今、大倉が向き合うのは9月14日に初日を迎えるKAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』。ミゲル・デ・セルバンテスの長編小説をもとにKERAが新たな冒険奇譚を書き下ろし、主役のドン・キホーテを大倉が演じる。ドン・キホーテと同じ50歳を迎えた大倉に、本作を通して大倉が考える俳優の仕事について語ってもらった。
取材・文=二見屋良樹
撮影=鈴木靖紀
『ドン・キホーテ』をやらないかとKERAからの申し出があったとき、指折りの消極的人間を自認する大倉孝二が「やらせてください」と即答した憶えがあり、続けて「イカれたおじさんの話が好きなのかもしれない」とのコメントが発信されたことで、そこから取材の口火が切られた。
「KERAさんのもともとの大きな作風に「ナンセンス」というものがあって、ナンセンスといえば、赤塚不二夫さんや、劇作家の別役実さんたちの作品が想起されるように、どこかイカれた人たちがめちゃくちゃなことをするというイメージがあって、若いころそんなイカれた役をやってみたいなと、劇団の作風として先輩たちがやっていらっしゃるのを見ていて思っていました」
と言いつつ、自分自身が何も見えていなくて、世の中のこともまったく見えていなかったから、「イカれたおじさんて面白いな」と安易に思っていただけだと言う。ただ、セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』を読んであまり記憶に残っていないなかで、ドン・キホーテがはちゃめちゃな行動を繰り広げる、従者のサンチョ・パンサが返す言葉がどこか面白かったという印象は記憶にあるとも。
KERAの舞台は、稽古初日を迎えるときにも完成した台本がないことで知られる。そんななかで、出演したいと大倉の心を動かしたのは何だったのか。
「思い込みの域を脱しないかもしれませんが、タイトルや、役柄、概要だけしか情報がないなかでも、何かまとっているものが面白くなるんじゃないのというような、もはや勘というしかないんです。本作で言えば、ドン・キホーテと言っても老人が風車に立ち向かっていく挿絵みたいなイメージしかなかったのですが、もし断ってほかの俳優さんがやっているのを観たときに、やればよかったなと思いそうだという気がしたことが大きかったですね。後々に、やればよかったと思いそうなのがイヤだったんです。映像作品などでも、そういうことはとても多くてタイミング的に難しかったとしても、あとでやらなかったことを後悔しそうだから出演を決めるということはよくあります」