2013年4月1月号 PERSON IN STYLE《美しいとき》より
生まれながらにして備わっている育ちのよさという品性、
華やかな美貌と都会的な知性が同居するクール・ビューティな面立ち。
司 葉子という女優にはスマートな東宝映画がよく似合った。
映画の観客たちは、深窓の令嬢を見るかのごとく
甘美な憧れをいだいてスクリーンの女優に釘付けになった。
俳優・夏木陽介さんも司 葉子さんに胸をキューンとさせた一人。
今回は、東宝撮影所で同じ青春を過ごした二人の久々の共演。
司さんに対する夏木さんならではの思いを披露していただいた。
私は〝華やかな共演者〞と呼んでいるんですが、映画でも舞台でも本当にすばらしい俳優の方々とご一緒させていただきました。歌舞伎の役者さん、長谷川一夫さん、森繁久彌さん、杉村春子さん、山田五十鈴さん、原 節子さん、高峰秀子さん……。これからは若い作家の方々、俳優のみなさんとご一緒したいですね。
スターだけが放つオーラに圧倒された出会い
成田発パリ行きの便のファースト・クラスはその日3人だけの乗客だった。
テイク・オフして数時間後、食事も済んでキャビン・アテンダントたちも一段落すると、客室の前方が妙にざわめいて数人のCA達が行ったり来たりし始めた。客の誰かが具合でも悪くなったのかと思いソッと訊いてみると、何とハリウッドの往年の大スター、オードリー・ヘプバーンが乗客の一人にいて、みんなサインをもらっているらしかった。学生時代『ローマの休日』や『麗しのサブリナ』、その後の『ティファニーで朝食を』を観て感動したことのあるあの女優さんとこれから12時間同じ空気を吸って、同じ空間を共有できるかと思うと、50何歳かの自分が10代の少年のように胸が躍った記憶がある。
東宝に入社して撮影所の宣伝部で司葉子さんを初めて紹介された時の第一印象は、まさにスクリーンで出会ったオードリー。その清潔感、美貌、スターだけが放つオーラに圧倒された。以来私のなかには、女優といえば〝西のオードリー、東の司 葉子〞がインプットされてしまっている。今でも年一回、東宝のスタッフや俳優が集まる同友会で会う機会があるが、司さんと会うと胸がキューンとなるのは、私だけではないだろう。
当時、世田谷の成城という街には東宝撮影所に近いからだと思うが、三船敏郎さんをはじめとして加東大介さん、団 令子さん、有島一郎さんなどたくさんの俳優と稲垣 浩監督や成瀬巳喜男監督、何人かのスタッフも住んでいて、司さんも私も成城の住人だった。朝のランニングや犬の散歩の途中で、当時珍しかったボルゾイ犬と芝生で遊ぶ司さんと立話をしたり、お隣の稲垣監督のお宅では、よく麻雀で遊んだ時代だった。
そのころ映画界には五社協定という今考えれば愚かな約束事があり、他社の俳優と会う機会は年に一度の映画人野球大会で、各映画会社のスターたちが一堂に会するときくらいしかなかった。それでも若い男優さん達とは夜の六本木や赤坂で一緒に遊ぶ機会はあったが、女優さんとはスタジオで会うくらいしか一緒になることはなかった。