菅田将暉

「現場を振り返りながら映像を見ると、
不思議ですが、フィクションなのに、
スクリーンの中の自分が活き活きしていて、
生きている証を感じ取れたのが 嬉しかったです」

2017年8月12日 スタジオエビスにて

 撮影:言美 歩
 

寺山修司さんが遺した同名の長編小説を基に映画化された『あゝ、荒野』は、10月7日(土)から前篇、10月21日(土)から後篇と、新宿 ピカデリー他全国にて二部作連続公開となります。

原作は1960年 代の新宿が舞台ですが、今回の映画では、東日本大震災や、ドローン、介護施設など時代を写す現代的なエッセンスが入り混じる近未来の2021年の新宿を舞台に、生きること、誰かとの繋がりを模索し続ける男を演じました。監督の岸善幸さんとは、『二重生活』でご一緒しましたが、僕は岸さんが大好きなんです。岸さんとやるなら、肉体的表現が必要とされるものをやりたいと思っていました。

岸さんの現場は、本番前の「テスト」はなく、毎回が一発勝負で全力疾走です。夏海光造(撮影監督)さんは、ドキュメンタリーの現場が多く、被写体とセッションしてくれるカメラマンです。夏海さんが体の動きなどを客観的にとらえ、僕ら役者が現場で衣装を着て相手役と向かい合っている状況でしか感じられないことを細かく見ていてくれます。その上、韓国映画『息もできない』で世界各国の映画賞を総なめにしたヤン・イクチュンさんも一緒です。断る理由など全くなく 「やらせてください」と即決で出演を決めました。

初めてのボクサー役で、肉体も心もさらけ出す作品です。撮影前、僕の体重は50数キロしかなく、ヤンさんは70数キロでしたので、2人が同じ階級(64、 5キロ)になるために、僕は食べて体を大きくし、筋肉をつけていく 体づりに半年ほどかけました。その後松浦慎一郎(ボクシングトレーナー)さんの指導の下、練習を積み重ね、本物のボクサーに近づけていきました。

最初40キロのバーベルをまともに持ち上げられなかったのが最終的には80キロまで、トレーニングを続けると如実に自分の進化が分かるのです。これは新しい発見でした。ご一緒したヤン・イクチュンさんは人の気持ちの捉え方や出し方が、少なくとも僕が今まで出会った日本人とは違って、すごくわかりやすかったです。

嘘がなく、その上美しいのです。自由でテイクのたびに違うことが生まれてくるのが楽しかったです。今回ボクシング初めて体験しましたが、ボクシングの3分間がこんなにもピュアな 時間だとは思いませんでした。ずっと相手と目を合わせ、目を離せば隙が生まれる、集中力と精神力の闘いです。他には何も入ってくることができない、一つのことに集中できる時間は、強烈な気持ちの良さがありました。それにボクシングは、人柄が出ます。殴られることに無意識に体が固まって、前を見ることができない、殴る相手も見ることができないバリカン(ヤン・イクチュン)のフォームは 性格を象徴しています。

小さい頃に母親に捨てられ、仲間に裏切られ少年院にも入った男。かたや韓国で母親を亡くして父親に虐待を受け、日本に無理やり連れてこられ、その上吃音で人との会話がうまくできない男。その男達が繋がりを求めて最後ボクシングで殴り合う。二人を囲む登場人物も荒んだ環境に生きながら心に傷を負っている。

そんな悲しすぎる話ではあるけれど、寺山修司さんという人の、世の中に対する愚痴のようなものが現代においてもどこか必要とされ、〝荒野〟というのは、時代とは関係なく、誰の心の中にもあるものだと思います。

そして、今、この映画に参加できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。


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