キムラ緑子

PHOTO MESSAGE 2018年1月1日号より


「寿命を縮めているなと
思うこともありますが
身を削ってでも
存在したい時間と場所、
それが舞台です」

キムラ緑子(女優)
2017年11月29日 松竹にて
撮影:言美歩

私の2018年の舞台は新橋演舞場での『喜劇 有頂天一座』(2/1~2/12 )からスタートします。

渡辺えりさん、段田安則さん、村田雄浩さんたちとご一緒した15年の『喜劇 有頂天旅館』に次ぐ〝有頂天シリーズ〟の第2弾です。昭和34年に劇作家の北條秀司さんがお書きになった台本で、新派の公演として上演されました。女剣劇の世界での座長の座をめぐる〝女いくさ〟がコメディタッチで描かれています。

北條秀司さんの作風なのでしょうか、 熾烈な女の闘いの物語ですが、日本人だからこそ心にしみ入る情緒というものが感じられる台本で、裏切りや、復讐劇の要素もあるんですが、そこには陰険なだけでなく愛のために、自分のためではなく誰かのためにというようなものが根底に流れているんです。登場人物たちの心がどのようにすれ違って闘いが起るのか、結末には心和らぐどんでん返しが用意されていて、絡んだすべての糸がほどかれ、お客様にもそのあたりの登場人物の心情みたいなものにも納得していただけ絶対に後味の悪い芝居にはならない、という構造になっています。

人間の愚かさを人間らしさと許容する作家の温かい視点を感じる作品です。女剣劇ということで、劇中でも『国定忠治』の上演シーンがでてきます。今の時代、『国定忠治』なんて、芝居好きな方でもあまり観る機会はないんじゃないでしょうか。あの〝赤城の山も今宵を限り……〟 という名台詞を忠治が大見得をきりながら言うあの瞬間を日本人なら 一度は観ていただきたいと思うんです、富士山を見るように。

大衆演劇というすごい世界があって、昔から日本人の心をとらえてきた日本人が大好きな名場面がありますが、その世界を観て、感じていただきたいんです。先日、新國劇(『国定忠治』を財産演目とする)の作風を受け継ぐ劇団若獅子の舞台を拝見しましたが、これを観ずして日本の心を語るなというくらいカッコいいんですよ。〝型〟の美しさといいますか、決まり方がカッコよくて釘付けになりました。

今回、劇団若獅子の笠原章さんに指導をしていただいて、名場面を演じることになります。私たちのはまがいものかもしれませんが、映画や舞台で日本中を夢中にさせたあの芝居、そして日本人の心をとらえた名台詞の一節が、今回の芝居の中に織り込まれています。そこもこの作品の見どころで、若い人にもぜひこの芝居の世界を体験していただきたいと思います。

次世代にも伝えていかなければいけない、残って欲しいその時代の演劇の匂いみたいなものが感じられる芝居ということで、今回の舞台を通して次の時代を背負う人たちに知っていただくというのも、一つ意味があると考えています。そのためにも名台詞をビシッと決めなければと、背筋が伸びる思いです。

喜劇の芝居って、ギャグで笑わせるということではないと思っていて、笑いのプロと呼ばれる方たちが大勢いらっしゃいますが、演劇作品、芝居というのは個人芸をお見せするという性格のものではないので、面白さの質もおのずと違うものになると思います。演劇というものは総合芸術で、すばらしい台本があって、それを組み立てる演出家がいて、表現する役者がいて、それぞれの立場で一つひとつのシーンを作り上げるプロのスタッフがいて、そのすべてがそろって初めて成立するものです。役者としては喜劇であれ、悲劇であれ、作家の意図を間違えことなく読み取って、作品の中で与えられた役に確かな命を吹き込めるよう臨むだけです。

2018年1月1日 Vol.34より
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