鈴木亮平

俳優は、すばらしい映画やテレビドラマに出合えたとき、大きな喜びを感じますが、今、新たな作品との出合いに気持ちの昂ぶりを隠せないほどの俳優としての幸せを感じています。僕にとって3年ぶりの舞台で主役を務めることになる『ライ王のテラス』です(2016年3/4~3/17赤坂ACTシアターにて。
〔問〕ホリプロチケットセンター03-3490-4949)。

これは三島由紀夫さんの最後の戯曲で、今回の演出は宮本亜門さん。カンボジア最強の王として今も語り継がれるジャヤ・ヴァルマン七世が病魔に冒されつつ、アンコール・トム、バイヨン(美しい塔の意)寺院を造営していく雄大な物語で、大伽藍の完成につれ王の肉体は崩壊していく様を王の精神と肉体との対比で壮大に描くアンコール王朝の衰亡を背景にした大ロマンです。

僕の好きな世界遺産が舞台でもありますし、なにより久々に舞台に立ちたいと思っていたところで、今この時期に一番やりたかった仕事をいただけたと思っています。この作品を映像で表現するとしたら、カンボジアの時代背景や王の気持ちの部分が主となると思うのですが、舞台でお見せするとしたらむしろ、三島由紀夫さんに寄り添っていかないと、戯曲を理解したことにならないのではと考えています。

 

三島文学の真骨頂ともいえるテーマが描かれていて、この戯曲を読むだけでは到底この役を演じることに僕は追いつけないと思い、それまでの三島作品も読んでいます。さらに王の病気のこと、信仰について、カンボジアの歴史や風俗も研究しなければいけない。何より、最後に王の美しい肉体が「私こそがバイヨンだ」というセリフがあり、そのセリフに説得力をもたらすような若く、美しい肉体でなければならないという絶対的な課題があるので、それを造りあげる時間も相当必要で、準備することが山積みです。もちろん実際にカンボジアにも出かけ、空気に触れ、往時の世界に浸ってみたいと思います。主役をやらせていただくときにいつも、僕でいいのだろうかというのがまず心をよぎります。

だからこそ、それ相当の準備と気力は万端ですと自身が胸を張って言える状態にならないと、僕は役を演じられないんです。「肉体の崩壊と共に、大伽藍が完成していくというその恐ろしい対照が、あたかも自分の全存在を芸術作品に移譲して滅びてゆく芸術家の人生の比喩のように思われた」と三島さんは語っていますが、僕も作品に取り組む際には、それが百年残るような、百年後に見ても恥ずかしくない作品作りをしたいとは常々思っていて、自分はいつか死んでしまうからこそ、世の中に残るものを作りたいという気持ちとして、最も共感ができる言葉です。

鈴木亮平という俳優を多くの方に認識していただけるようになってからはまだ舞台に立つ機会がなく、しかも今回のような大劇場で偉大な作品の主演を務めるのはまったく初めてのことなので、このタイミングでめぐり合えた舞台をなんとかやりきりたいと思っています。バイヨンを、王が自分の命を削り死と引き換えにでも造りあげた千年残る大傑作というものととらえると、バイヨンを造りあげるほどの俳優としての経験も、そこに至る力量もまだ僕は持ち合わせていないので、体当たりで臨むしかありません。ただ、初めてだからこその「熱」ってあると思っているので、そこは荒削りでもぶつかっていこうと思います。いつか、バイヨンと呼べる舞台を創造できることを願って。

撮影:2015年11月19日 ホリプロにて Photo.平岩 享

「アンコール遺跡に負けないくらいの熱量と美しさをもった舞台にしたいと思います」


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