藤 竜也

PHOTO MESSAGE 2020年1月1日号より

「僕にとって映画は、
そこで生まれて育って老いていく、
自分の町、故郷という感じでしょうか」

2019年11月22日 東京 目黒にて
撮影=言美歩

近浦啓監督の長編デビュー作で、監督自身が脚本も手がけた『コンプリシティ/優しい共犯』(2020年1月17日(金))新宿武蔵野館ほか全国順次公開)にかける思いを語る。

2019年は3本の映画に出演しましたが、2020年も映画で幕が開きます。  

近浦啓監督の長編デビュー作で、監督自身が脚本も手がけた『コンプリシティ/優しい共犯』です。(2020年1月17日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開)。  

日本における外国人労働者の問題を扱うなかで、劣悪な職場環境から逃げ出し不法滞在者となってしまった中国人青年がアイデンティティを求める姿勢を描いた映画です。すでに、世界の多くの映画祭で高い評価を得ている作品です。  

僕が演じるのは、青年が他人のIDを使い働くことになった山形の蕎麦屋の主人・弘で、青年と親子のような情愛を通い合わせることになります。 近浦監督との出会いは6年前です。高校時代に、彼が生まれる前年に公開された大島渚監督の『愛のコリーダ』を観て以来、いつかこの役者と作品を作りたいと思い続けてくれたそうで、11分の短編映画ながらと恐縮しながらも彼の初監督作『Empty House』に出演依頼をしてくれました。

彼の脚本を〝風流〟だと感じ、出演を快諾しました。今回、記念すべき監督の長編デビュー作に出演できたことは実に嬉しい。僕は出演を受けるか否かは脚本で決めるの決めるのですが、出演してきた映画を観ると、どんな俳優だったのかということがわかります。だから、いい加減に作品を選ぶことはできない。作品を選んだ理由には責任がありますからね。

軋轢のあるところに、ドラマは生まれるわけですが、今回の映画では、その軋轢がインターナショナルだったということ。異邦人の青年の日本でのちょっと痛ましい青春、そこに袖振り合うちょっと心の寂しい老人。脚本から読み取れるなんとなく痛く、哀しく、優しいみたいなところがね、いいなと思いました。台本に書かれている文字だけではなく、行間から浮かび上がる書き手の気迫、そこで差がつくんです。  

脚本を読むと、監督がどんな作品を撮りたいのかが一番よくわかります。近浦さんは脚本を書き、撮影に入るまでに、中国サイドとの折衝とか、ロケハンだとか、資金調達という準備に相当な年月を費やしている。撮影に入る前から監督の映画造りは始まっているんですよ。だから、初の長編ながら、撮影の現場に入ったときには、初めてにつきものの初々しさというより、すでに近寄りがたいような監督としての空気を纏っていましたよ。凄い存在感でした。

僕の役は蕎麦屋の主人ですから、蕎麦を打たなければならない。専門家からは蕎麦打ちは短時間でなんとかなるものではなく、特に蕎麦切りは一番難しいと言われました。でも、僕は無理じゃないと思っているわけです。 俳優というのは、そういうときに異常な集中力を発揮するんですよ。結果として、プロの職人の美しい蕎麦切りの音だと認めてもらえたようで、映画にも僕の蕎麦切りの手元が映っています。役に没入するのが楽しいんです。 僕の中に役と藤竜也の2つの人格が住んでいるような状態になり、いろんなリアクションとかは役に任せるんです。 今回は、蕎麦をマスターすることで弘になれると思ったんですよ。弘の生い立ちから現在までの詳細な履歴も具体的に創りました。特に、どんな挫折を味わったかと。そうすることで、弘の言動にも納得がいきます。

近年、毎年のように映画に出させてもらっていますが、出自が映画だったからでしょうか、やはり映画にはトキメキます。日活時代の映画『野獣を消せ』は、初めて役のキャラクターの創り方がわかった、ある種、俳優として僕の出発点です。そして代表作と言える大島渚監督の『愛のコリーダ』と出会い。 僕にとって映画は、そこで生まれ育っていく、自分の町、故郷のような場所だと言えるでしょうか。

2020年1月1日 Vol.42より
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