仲間由紀恵

昨年来、舞台『放浪記』のことを思うと、常に何らかのプレッシャーを感じ続けているのですが、初日が迫ってくるにつれ、それは大きく膨らんできているような気がします。今後、稽古に入り、『放浪記』の作品世界の中に身を置き、芝居の空気感に実際に触れることにより、このプレッシャーがどう変化するのかが今は楽しみです。

公演は東京・シアタークリエ(10/14~11/10 問い合わせ:東宝テレザーブ03-3201-7777)を皮切りに、大阪・新歌舞伎座、名古屋・中日劇場、福岡・博多座と、2016年1月まで足かけ4ヶ月、全105回というロングランです。演劇界の金字塔である偉大な作品の、しかも名女優森光子さんが演じられた林芙美子の役をと、お話をいただいた瞬間は、光栄という思いより、私にできるのかという不安が先に立ちました。どなたもがご存じの作品だからこその不安と緊張感です。

森さんの舞台を観客の一人として拝見させていただいたとき、森さんの芝居と作品世界に安心して身を委ねることができ、一緒に泣いて、一緒に歓び、一緒に感動でき、体に水が浸透していくように林芙美子の人生を共有でき、劇場の空気が一つになっていくのを肌で感じることができました。私同様、多くの演劇ファンの方々の心に、森光子さんの林芙美子が今も鮮やかに刻みこまれていることと思います。

今回、演らせていただくにあたり本を読み、改めて本のすばらしさにも感銘しました。この大きな作品に挑戦させていただく機会は、今を逃したら二度とめぐりあえないかもしれないという考えがよぎったとき、気持ちが固まりました。貧しさに対する怒りや哀しみを抱えながらも、前を向いて生きるという強い意志をもった林芙美子と私には重なる部分がないかもしれない、だからこその挑戦ということで、むしろ思い切ってできるような気がしました。

私のなかで、もしかすると新たな自分を発見できるかもしれないというワクワクがドキドキを超えたのかもしれません。今回、日夏京子を演じられる若村麻美さんをはじめ、永井大さん、窪塚俊介さん、福田沙紀さん、立石涼子さん、羽場裕一さん、村田雄浩さんといった共演者の方々みなさんも、新生『放浪記』をいい舞台に仕上げようという同じ志をお持ちだと思います。気持ちを一つにする同志としての結びつきを心強く感じます。私は私らしく一生懸命、生き生きと、気持ちをこめて林芙美子を演じ、役を通して一生を生きる醍醐味を味わってみたいと思っています。

森光子さんのように、魂そのもので演じるという境地にまではおよばないかもしれませんが、躍動感のあるお芝居をお見せすることができればと、これから始まる稽古を日々重ねて初日に臨みたいと思っています。昭和36年の初演から、多くの人々がこの作品に関わり、今日まで大事に舞台を育てていらっしゃいました。そこに思いをめぐらすとき、やはり身がひきしまるものを感じます。

私自身が森光子さんから大きな感動をいただいたように、今度は私が一人でも多くの観客のみなさまに喜んでいただける芝居をお見せする番です。森さんの思いを受け継ぎながら、心も肉体も全部さらけだして作品世界を組み立てていきたいと思います。私の女優としての新たな挑戦の目撃者として、『放浪記』という時間をご一緒に共有していただければ幸せです。

撮影:2015年7月15日 ホテルニューオータニにて PHOTO:平岩 享

「『放浪記」という偉大な作品に、ワクワク楽しみながらも気持ちを込めて向き合いたいと思います」


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