【カムカム】のひなたが胸躍らせる「東映時代劇」を作家の村松友視さんが振り返る

コモレバVol.3( 2010年11月25日号 ) SPECIAL FUTUREより 


「御存知! 東映時代劇」~時代劇黄金時代の光彩

文=村松友視

昭和30年代から40年代はじめころまで、各映画会社が専属のスターたちを総動員して記念作品や正月作品としてオールスター・キャスト映画を製作していた。なかでも東映の〝忠臣蔵〞映画や、〝任侠〞映画には子供から大人までが胸躍らせた。
なにしろ、遠山の金さん、旗本退屈男、むっつり右門、一心太助、若さま侍らが一堂に会すのである。
それに美空ひばりをはじめとする東映城の姫たち、いつもながらの悪役たち。すべての役者の貌が、いまでも人々の思い出の中に生きている。
東映時代劇は、庶民にとって最高の娯楽だったのである。

取材協力:東映株式会社

華と粋と凄味の底に独特の重さと渋さの千恵蔵

 私が小学校から中学校にかけて耽溺していた映画館は、静岡県の清水にあったサクラ劇場と、静岡市の両替町通りにあった静映(しずえい)劇場だった。一九四七年(昭和 22 )に小学校に入学したのだが、その頃はまだGHQの影響もあって新作の時代劇は製作されなかったのではなかったか。戦前につくられた時代劇の復活上映や、新作の現 代劇や喜劇、それに輸入フィルムによる洋画が、戦後の人々に与えられた娯楽映画の中心だったように思う。

 東急合資により、東横映画と大泉スタジオの配給会社であり、東映の前身である東京映画配給会社が創立されたのは一九四九年(昭和24 )で、その第一作は横溝正史原作、松田定次監督、片岡千恵蔵主演の『獄門島』だった。このポスターが清水の街のそこかしこに貼られていたのを、私は子供心に憶えている。片岡千恵蔵主演の『遠山の金さん・いれずみ判官』が翌一九五〇 年(昭和 25 )に上映され、以来ながきにわたって私は千恵蔵フリークの少年だった。この作品では、遠山金四郎がなぜ背中に刺青を彫るにいたったかにからむ父子の情が軸となっていて、最後にやむを得ず背中の桜吹雪の刺青をあらわにするときの切なさに、心打たれたものだった。

「おい、この背中の東山桜、見事散らせてみせるかい」片岡千恵蔵が演じる『東山の金さん』 ©東映

 それ以降、東映時代劇は海外の賞を意識する大映や東宝に対して、あくまで日本の庶民をターゲットとする娯楽作品路線をつらぬいていった。

〝遠山の金さん〞シリーズは、千恵蔵 の〝遊び人の金さん〞と北町奉行遠山金四郎という二つの貌( かお)の使い分けの妙が味わいで、何といっても最後の御白洲(おしらす)における裁きの醍醐味が見どころだった。上下(かみしも)姿の片肌を脱いで背中の桜吹雪を見せつけ、唇を強く引き締めながら、酷薄さと凄味をおびた眼(まなこ)で 悪人どもを見すえ、「おい、この背中の遠山桜、見事散らしてみせるかい」と啖呵を切る千恵蔵に、胸のつかえがすーっと降りる。その前に巷で一度、「じたばたするねい、日照りつづきで、ホコリが立たぁ!」という啖呵と桜吹雪を見ている悪人ばらは、いっぺんに恐れ入ってしまう。

 この二つの場面での啖呵ゼリフで、 千恵蔵の上をいく役者はいまだ出ていない、というのが今のところの私の感想だ。何しろ、千恵蔵には堂々たるフィクションの華と粋と凄味の底に、独特の重さと渋さがあったからだ。

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