村上春樹原作『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)を、映画化した『アフター・ザ・クエイク』が2025年10月3日(金)から全国公開される。「クエイク」は、「Quake」で「地震」を意味する。本作は、2025年4月にNHKで放送された「地震の後で」と物語を共有しつつ、4人を結ぶ新たなシーンが加わり、30年の時代の変化を1本の映画として生まれ還らせた。監督は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)や大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(19)、「64(ロクヨン)」(15)などを手がけた井上剛。脚本は、共同脚本として『ドライブ・マイ・カー』(21)を手がけた大江崇允である。
まず、登場人物とその構成をかいつまんで紹介すると、1995年1月の阪神・淡路大震災後、自宅で震災ニュースの映像をみていた未名(橋本愛)は、「もうここに戻るつもりはない」と置手紙を残し、家を出る。残された夫の小村(岡田将生)は、その理由がわからないまま、後輩に依頼された「届け物」をするため、釧路に行くことに。そこで出会った女性たちから、UFOをみた知り合いの奥さんが、1週間後に帰らくなかったという話を聞く─。
2011年、順子(鳴海唯)は父親とうまくいかず2年前に家を出て、海辺の町のコンビニでアルバイトをしながら啓介(黒崎煌代)と半同棲をしている。そこに関西弁の男・三宅(堤真一)は毎日ほとんど同じ時間に同じものを買いに来て、海辺で集めた流木で焚き火をしている。そのうち順子は三宅と焚き火を共にするようになる。神戸の東灘区に住んでいた三宅は16年前の震災で家族を喪い、自分だけが生き残り、この地に辿り着いたという過去が明かされる─。
善也(黒川想矢)は、父親を知らない。母親(井川遥)から、「あなたは神の子ども」だと言われ熱心な宗教団体の中で育った。しかし、東日本大震災が発生し、未来に希望が持てなくなった善也は信者をやめる。10年後成長した善也(渡辺大知)は、地下鉄の中で、耳の欠けた男を見つける。それは、父親かもしれない特徴だった、善也は、男を追いかけるのだが─。
漫画喫茶で暮らす地下駐車場の警備員・片桐(佐藤浩市)は、ある日繁華街のゴミ拾いをしていると、巨大な蛙の姿をした「かえるくん」(声・のん)が現れる。「かえるくん」は、30年前、片桐とともに、東京を地震から救ったという。身に覚えのない片桐だったが、かえるくんから地震を起こす「みみずくん」との戦いに誘われる。戸惑いながらも協力することにした片桐は、かえるくんと地下に降りていくと、そこは悪夢のような世界で、信用金庫時代に浴びせられた言葉がよみがえり、片桐はその場に倒れ込んでしまう。片桐は蓋をしていた自分の過去と向き合うことになるのだが─。
物語は、1995年から2025年までの時系列で展開される。
村上春樹の短編連作『神の子はみな踊る』は、1999年に『新潮』に発表された6編からなる。本作では「UFOが釧路に降りる」、「アイロンのある風景」、「神の子はみな踊る」「かえるくん、東京を救う」の4編がもとになっている。
最初の鑑賞では、「UFO」、「かえるくん」、「みみずくん」など非現実的な世界に面食らった。なるほど村上春樹の小説を映像化するのは難しいし理解するのも難しい。そして2回目鑑賞して、時代ごとに異なる色合いや、工夫を凝らしたシーンなどに目をみはった。
それぞれの短編が独立した物語であるが、背景には「地震」がある。登場人物は、孤独や内に秘めた過去の苦い思いを抱えている。直接被災した人だけではなく、「地震」は多く人の日常や希望を喪失させた。しかし別の言い方をすれば、別のステージの幕が開き、新たな出会いがあり、そこには再生していく人間の逞しさがあるのではないだろうか。
映画に一つの決まった答えはない。それぞれの見方で楽しめるはずである。
アフター・ザ・クエイク
10月3日(金)より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開
出演:岡⽥将⽣ 鳴海唯 渡辺⼤知/佐藤浩市
橋本愛 唐⽥えりか 吹越満 ⿊崎煌代 ⿊川想⽮ 津⽥寛治
井川遥 渋川清彦 のん 錦⼾亮/堤真⼀
監督:井上 剛
脚本:⼤江崇允
⾳楽:⼤友良英
原作:村上春樹『神の⼦どもたちはみな踊る』(新潮⽂庫刊)より
製作:株式会社キアロスクロ、NHK、株式会社NHKエンタープライズ
配給・宣伝:ビターズ・エンド
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