本編の撮影は、石川県の輪島。2024年元旦の能登半島地震の直前のことだった。被害の大きかった地域だけにかつての風情を映像に収められた貴重な映画となった。
舞台は、日本海を臨む小さな漁村。孤独な漁師・三浦諒一(舘ひろし)の背中にはくすんだ刺青があって、隠しようもない過去を背負っている。ある日、白い杖をついて危なげに歩く少年・幸太(尾上眞秀)を見かける。弱視の幸太を同級生たちはイジメて笑い者にする。交通事故で両親を亡くし同時に視力を失った幸太は、荒んだ生活の叔母(MEGUMI)に預けられ同棲する荒くれ男(赤堀雅秋)に暴力を振るわれる日々を送っていた。行き場のない孤独な少年を見るに見かねて、三浦は自分の漁船に誘うことから二人の交流が始まる。幸太は三浦が元ヤクザだとは思えない男の優しさを感じ取り、三浦もまた幸太が純粋に一人の人間として接してくれることで救われていた。年齢差を超えて友情が芽生えた。
三浦には「親父」と呼ぶ先代組長の河村(宇崎竜童)というリスペクトする存在がいた。「強さってのはな、誰かのために生きられるかってことだ」という親父の言葉が忘れられない。三浦の人生の指針とも言えた。
「海が見たい」という幸太の視力を回復させるためには高額な費用がかかる。三浦は以前舎弟だった大塚(ピエール瀧)を動かしてヤクザの資金を奪い幸太の手術代を捻出する。手術は成功し、幸太の目に光が戻ったが、幸太には何も告げずに三浦は自首して12年の刑に服していた。12年後に出所した時には、幸太(眞栄田郷敦)は成長しマル暴担当の刑事になっていた。出所した三浦は、75歳。幸太から避けるように暮らしていたが、河村組組長に成りあがった石崎(椎名桔平)の悪行を取り締まる幸太と対峙することになり、三浦は再び拳銃を手にする…。
それにしても豪華なキャスティングが実現したものである。上記以外にも、石崎の子分で血の気の多い八代に(斎藤工)、刑事となった幸太の上司にあたる警察官の大黒は(一ノ瀬ワタル)、幸太が養護施設で出会った恋人あやに(黒島結菜)、三浦を見守る民宿の主人・荒川(笹野高史)、警察OBでマル暴の刑事・田辺には(市村正親)…これだけの芝居上手の面々が集結した。
本作は、2022年亡くなったスターサンズの故・河村光庸プロデューサーが遺した最後の企画だった。河村はチャールズ・チャップリンの『街の灯』を発想のベースにして想を練っていたという。河村と舘ひろし、本作監督の藤田道人は『ヤクザと家族The Family』(21)ですでに縁を結んでいて、撮影は木村大作、あの『鉄道員』という名作を手がけた巨匠といえばお分かりだろう。本作を作り上げるまで、舘ひろし、藤井監督、河村プロデューサーは3年間議論を重ねながら脚本という形になった。根幹には、「人の強さとはなにか」、「誰かのために生きるとはどういうことか」…重いテーマではあるが、チャップリンの『街の灯』の盲目の花売り娘と浮浪者が、紆余曲折あっても最後に抱き合うシーンが浮かんでくる。さらに勝手を言わせてもらえれば、舘ひろしの無口で不器用な漁師の名演を観ながら、レイモンド・チャンドラーの名言「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」が口を衝いていた。舘ひろしには石原裕次郎、渡哲也らのDNAが明らかに備わっていた。
『港のひかり』
2025年11月14日(金)全国公開
監督・脚本:藤井道人
企画:河村光庸
撮影:木村大作 美術:原田満生 音楽:岩代太郎
出演:舘ひろし 眞栄田郷敦 尾上眞秀 黒島結菜 斎藤工 ピエール瀧 一ノ瀬ワタル MEGUMI 赤堀雅秋 市村正親 宇崎竜童 笹野高史 椎名桔平
配給:東映 スターサンズ
©2025「港のひかり」製作委員会