沖縄の地上戦を風化させてはならない、映画『島守の塔』が伝える「命どぅ宝、生き抜け!」

 今年、沖縄県の本土復帰50周年の節目だが、あらためて77年前の太平洋戦争の真っただ中にあった沖縄戦の真実を知ることができる機会を得た。本作は、語り継ぐべき悲惨な史実とともに、忘れてはならない〝人間の標〟が刻まれているのだ。

 戦争を知らずに生まれた我ら昭和の団塊世代にとって知らされてきた戦争の悲劇は、HIROSHIMA、NAGASAKIであり、TOKYO大空襲、そして沖縄である。原爆、空爆で尊い命300万人以上を失ったが、沖縄戦は唯一の地上戦だったことをあらためて想起させられた。島に迫る米軍艦隊の艦砲射撃に始まり、武器弾薬等物量豊富な米軍が上陸し瞬く間に焼き尽くされて、島民の4人に一人が犠牲になった。

 だが、米軍上陸必至という様相の中、昭和20年兵庫県出身で沖縄県に赴任した島田叡(あきら、萩原聖人)、栃木県出身の警察部長 荒井退造(村上淳)、この二人の人間の標がなかったら、沖縄全島民が犠牲になったかもしれない。

©2022 映画「島守の塔」製作委員会

《島守の塔》は糸満市の摩文仁の丘 平和公園内にある。県民の安全確保に身を賭して尽くした戦没県職員469柱を祀る慰霊塔である。その後ろに「沖縄縣知事 島田 叡 沖縄縣警察部長 荒井退造 終焉之地」と刻まれた石碑が建つ。なぜ後世にこの二人の内務官僚の名を遺すことになったのか。

 荒井退造警察部長は、県民の疎開に先頭に立って7万3千人を県外に疎開させ、米軍上陸後の戦闘激しい島南部から北部へ15万人を避難させるなど島田県知事とともに力を尽くし延べ20万人の命を救ったと記されている。

 戦禍ますます激しくなる中、軍部は一億玉砕の大義名分の下、女子や青少年までも戦場に向かわせようとするが、島田県知事は、「県民の命を守ることこそが自らの使命である」と軍部に反抗しながら、「命どぅ宝、生き抜け!」と叫ぶのだ。

 映画は、戦火の見るに耐えない地獄のような悲惨さを描きながら、「人間の命の尊さ」を伝えることで戦争の記憶を風化させてはならないと迫ってくる。戦火を辛うじて生き抜いた県職員の比嘉凛(吉岡里帆)は、昭和、平成、令和を生き抜き(香川京子)94歳にして慰霊塔に手を合わせて、仕えた島田県知事の石碑に語りかけるのだ。「私、生きましたよ」と。

  試写室を出ると夜陰迫る熱帯の都心の平和なビル街に佇み、「これは単に過去の悲しい出来事が日本の南端の島、OKINAWAに起きていた物語として終わらせてはならない。現代のウクライナへのロシアの侵略戦争下、『生きろ!生き抜け!』と戦禍に泣くウクライナの人々に伝えなければならない」と、気ばかりが急くのだった。

ライター:村澤 次郎


『島守の塔』
7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国公開

出演:萩原聖人 村上淳
   吉岡里帆 池間夏海/榎木孝明/成田浬 水橋研二/香川京子
監督・脚本:五十嵐匠  脚本:柏田道夫  音楽:星 勝
製作:映画「島守の塔」製作委員会  
配給:毎日新聞社 ポニーキャニオンエンタープライズ 
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会 https://shimamori.com/

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