田中 圭と名犬の絆が陽だまりのような温もりを生んだ感動作『ハウ』

 編集部から犬の映画を観てこい、とのご下命にハタと困った、逡巡した。犬が嫌いなのではない、好きだ。しかし嫌だな、と。なぜなら、絶対に泣かされる。必ず涙が止まらなくなる、出来ることなら勘弁してもらいたかった。実は30年ほど前、我が家にも愛すべきゴールデン・レトリバーがいた。生後3カ月で我が家にやって来た子犬が瞬く間に大型犬に成長し、わずか7年半を生きてリンパ癌に斃れた。本作の主人公「ハウ」のように聡明で賢くて我ら家族に寄り添ってくれた。現在まで骨壺は床の間に遺影とともに置かれていることをお伝えすれば、お察しいただけるだろう。
 それでも、観ました。やっぱり真っ白な大型犬「ハウ」の可愛さ、健気さに泣かされます。でも、これは飼い主との絆だけを描いて終わるお涙頂戴の物語ではなかった。


 失恋し希望を失った青年・赤西民夫(田中 圭)のもとにやってきたハウも痛手を負った保護犬で、ワン!と鳴けない、不自由さを抱えています。〝二人〟は瞬く間に仲良しになって気弱な民夫の心の拠りどころになるのに時間はかかりません。ところが、ずっと続くはずの幸せな時間がぷっつりと切れます。ハウは突然、失踪。交通事故死したという報せに民夫はうろたえます。

 しかし、民夫の住む横浜市から姿を消したハウは、遠く青森県下北郡の尻屋崎灯台のもとにいた、生きていたんです。ジッと海を見つめるハウの気持ちを察すれば、どうしてこんな遠くへ来てしまったんだろう、「もう一度、民夫に会いたい」と。ハウは意を決してひた走ります。ハウよ、君は〝走れメロス〟か、〝母をたずねて三千里のマルコ〟か。本州の最北端から、東北大震災の痕跡残る岩手県盛岡市や陸前高田市、宮城県石巻市、福島県双葉郡、茨城県久慈郡、栃木県さくら市、群馬県桐生市を経て民夫のいる横浜市港北まで約798キロの道のり。その間ハウが遭遇する様々な事情を抱えた人間たちとの出会いと別れがあり、その地で、その場で、その人たちに寄り添い、ハウの純粋無垢な気持ちが幸せに導く物語が展開して行きます。

 ネタバレはいたしません。かくてハウと民夫は再び出会い一緒に暮らすことになるのか、切なくも優しいラストに、きっと貴方は温かい涙で頬を濡らすことでしょう。

 本作は『黄泉がえり』(04)、『ナミヤ雑貨店の奇跡』(18)で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した、斉藤ひろしによる原作・脚本、『眉山-びざん-』(07)、『ゼロの焦点』(09)、『のぼうの城』(12)で日本アカデミー賞優秀監督賞受賞の犬童一心監督、二人の犬好き動物好きがタッグを組み、〝天才的〟な俳優犬「ベック」(本名)を得て心温まる物語が生み出されたと言えます。そして主人公・民夫を支える同僚に池田エライザが新鮮な演技を見せ、野間口徹、渡辺真起子、石橋蓮司、宮本信子といった実力派俳優陣が揃い、また全編のナレーションに女優・石田ゆり子が起用され、その優しい語り口が感動を高めていると言っていいでしょう。
文:村澤 次郎


映画『ハウ』は8月19日(金)全国ロードショー
原作:『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
出演:田中圭 池田エライザ 野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
監督:犬童一心
脚本:斉藤ひろし 犬童一心
配給:東映
公式HP:haw-movie.com
映画クレジット:(C)2022「ハウ」製作委員会

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