25.05.17 update

小説「アカシヤの大連」で芥川賞を受賞した清岡卓行の生涯と作品をたどる企画展 5月24日~ 神奈川近代文学館で

 詩人、小説家の清岡卓行(1922~2006)は、日本統治時代の中国・大連に生まれ26歳まで過ごした。10代から詩作を始め、36歳のときに詩集『氷つた焔』で詩壇デビュー。その後新たに小説に取り組み、「朝の悲しみ」に続く、2作目の「アカシヤの大連」で第62回芥川賞を1970年に受賞した。「アカシヤの大連」には、外国からの租借地を故郷とする矛盾に悩みながらも、あふれ出るような大連への郷愁が綴られている。芥川賞受賞後も、詩、小説、評論、随筆など多彩な作品を世に出している。

▲清岡が大連に帰郷した20歳の夏につくった詩「円き広場」の原稿。<東洋のパリ>を目指して整備された街の中心の円形広場を歩きながら、清岡は詩作への「精神的な目覚め」を感じたという。『円き広場』(1988年10月 思潮社)に収録。県立神奈川近代文学館蔵・岩阪恵子氏寄贈


 
 おもしろいのは、清岡と野球とのつながりである。
 フランス文学を本格的にやりたくて、旧制一高から東京帝国大学仏文科に進んだ清岡だったが、在学中に帰省先の大連で敗戦を迎え、3年間の残留後引き揚げて来た。しかし学問どころではなく、家族を養うために仕事を探していたときに、日本野球連盟の入社試験案内を見つけ、1949年に入社。野球に熱心な清岡は、その就職を機に後にセントラル・リーグの試合日程編成担当となり、「猛打賞」を提案し、採用されたことでも知られている。大学は働きながら7年間をかけて卒業できた。
 

▲清岡卓行 プロ野球公式試合終身入場パス
引き揚げ翌年の1949年に日本野球連盟(のちにセ・リーグ事務局へ移る)に就職した清岡は「猛打賞」を発案、試合日程の編成を13シーズン担当した。県立神奈川近代文学館蔵・岩阪恵子氏寄贈

 

 少年時代から熱く憧れていたパリへの訪問が叶ったのは清岡が64歳のときで、現代文学に関する日仏交流のシンポジウムに出席するためだった。到着の翌朝にみたマロニエの花の美しさに心打たれた清岡は、第一次世界大戦前から第二次世界大戦前までの国際芸術都市・パリと、藤田嗣治や金子光晴、岡鹿之助、作曲家ラヴェルら優れた才能を持つを芸術家たちを題材に、『マロニエの花が言った』を10年をかけて完成させる。まさに清岡の一生の思いを託す渾身の大作である。

 本展では清岡の直筆原稿をはじめとする収蔵資料を中心に、清岡がこよなく愛した大連と憧れのパリとの関りを通して、清岡卓行の生涯と作品をたどる。


清岡卓行展 ── 大連、パリ「円(まろ)き広場」
【会期】2025年5月24日(土)~7月27日(日)
【休館日】月曜日(7月21日は開館)
【開館時間】午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
【会場】神奈川近代文学館第2・3展示室 (横浜市中区山手町110 港の見える丘公園内)

★会期中の6月21日(土)には、清岡秀哉(清岡卓行末子、デザイナー、ギタリスト)と日和聡子(詩人、作家)の記念対談「父のいるところ――『幼い夢と』と『其処そこ』」 が予定されている。
【お問い合わせ】045-622-6666
【HP】https://www.kanabun.or.jp/

 

 

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