谷川俊太郎(1931~2024)は初の詩集『二十億光年の孤独』を発表し、その後『世間知ラズ』で萩原朔太郎賞、『詩に就いて』で三好達治賞など多くの詩集が評価され、その活躍は絵本や童話、翻訳など多岐にわたっている。
2005年に日本科学未来館でプラネタリウム作品『暗やみの色』が上映されるにあたり、谷川は書き下ろしの詩「闇は光の母」を寄せた。その後谷川が構成、演出に深く関わったプラネタリウム作品『夜はやさしい』が完成し、2009年から約7年間にわたり上映されてきた。
『夜はやさしい』は、世界の6つの地域(アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカ、北アメリカ、オーストラリア)のある夜の様子を、プラネタリウム投影機「MEGASTAR-Ⅱ cosmos (メガスターツー コスモス)」によるリアルな星空と、フィールドレコーディングで収録された各地のリアルな環境音で再現したもの。そして谷川の書下ろしを含む自選の詩に導かれながら、世界の夜を旅していく。観客はその場にいるような感覚になり、さまざまな思いをめぐらせてきた「夜」をとらえ直し、地球と宇宙の広がり、そしてその中にいる自分の存在を改めて感じられる作品である。

出発地の東京から世界6カ所にわたり、各地の夜空がドームスクリーンに映し出され、あたかもその夜にその場所にいるかのような音場が観客を包み込む。☆は星空の見どころ。
再上映にあたり、挿入歌「夜はやさしい」を作曲した谷川賢作は、
「父の発案の「夜はやさしい」にそっと身を委ねると、決して、ことばで書かれたものだけが「詩」ではないのだと、気付かされる。地球に生きる鳥たち、動物たちの鳴き声、様々な人々のお喋りと歌や踊り、風の音、波の音。この愛しい惑星の、全ての音たちのハーモニーで奏でられる「音の詩」を、まるで、そっと神が見守っているかのような、星々の瞬きも「光の詩」。時々、お気に入りの車椅子に腰掛け、静かに夜空の星々を見上げていた、晩年の父の後ろ姿を思い出します。それら全ての「詩」を指揮していたのかな、微笑みながら」とメッセージを寄せている。
『夜はやさしい』の監修を務めた、日本科学未来館の毛利衛名誉館長は、
「16年ぶりに「夜はやさしい」を見て胸をつかれたのは、「耳をすませていると文字を忘れる」という一節でした。祝いの宴の太鼓と波音が交じり合うセネガルのにぎやかな夜の場面に添えられた言葉です。言葉に対して物理学者のような厳格さを持っていると感じた谷川さんが“文字を忘れる”ほどに、地球上には豊かな音が鳴っていて、自然や我々の存在そのものの大きさを教えてくれる。そのことに気づいた今、より一層この作品を味わえるようになった気がします」と語る。
心に深く刻まれるプラネタリウム体験を堪能したい。
プラネタリウム作品「夜はやさしい」
上映期間:2025年7月2日(水)~12月27日(土) 1日1回16:20から上映(本編約25分)
休館日:火曜日(ただし、祝日や春夏冬休み期間などは開館の場合あり)
会場:日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)
問い合わせ:03-3570-9151
鑑賞にあたっては事前予約が必要 未来館オンラインチケットサイト