Boléro, un film d’Anne Fontaine, avec Raphaël Personnaz (Ravel), Doria Tillier (Misia), Jeanne Balibar (Ida Rubinstein), Emmanuelle Devos (Marguerite Long), Vincent Pérez (CIPA), Anne Alvaro (la mère de Ravel), Sophie Guillemin (Mme Revelot), Alexandre Tharaud (Lalo) - Christophe Beaucarne DOP
耳慣れたクラシックの名曲であっても、誰が作曲しどんな経緯で世に出たか、その背景を知らずに聴いていることが多い。今も世界中で15分ごとに演奏されていると言われる「ボレロ」も、そんな名曲の1つだった。天才作曲家・ラヴェルの最高傑作と言われる「ボレロ」は、ラヴェル自身が数ある名曲の中で一番認めていない曲だったという。なぜなのだろう。8月9日(金)公開の『ボレロ 永遠の旋律』は、その秘密を解き明かす音楽映画である。
「ボレロ」は同じリズムが保たれている中で、2種類の旋律が繰り返されるのが特徴的で、次第にオーケストラの響きが厚みを増し、クライマックスを迎えるという明快な構成になっている。1928年に作曲家のモーリス・ラヴェルがバレエ曲として書きあげ、パリ・オペラ座で初演されてから100年近く演奏されているが、オーケストラ単体で演奏される機会も多いため、バレエ曲だったことにあとから気づくほどだ。
「ボレロ」はロシア生まれのバレリーナで役者でもあったイダ・ルビンシュタイン(ジャンヌ・バリバール)からの依頼だった。ラヴェル(ラファエル・ペルソナ)は、アルベニスの「イベリア」をバレエ用に編曲しようと閃き、アメリカへ演奏旅行に旅立つ。ジャズをはじめとするアメリカ文化に感銘を受けて帰ってくるが、頼まれたバレエ曲は1音も書けない状態で、深刻なスランプに陥っていた。本作はそんな彼がどのようにして、曲を仕上げていったのか、その過程が描かれる。
「ボレロ」完成の背景にはラヴェルに影響を与えた4人の女性の存在があった。バレエ曲を依頼してきたイダ、彼が長年ミューズと慕うミシア(ドリヤ・ティリエ)、そしてきっと成功し人生が変わると言い続けて来た母親のマリー(アンヌ・アルヴァァロ)、ピアノ奏者のマルグリット・ロン(エマニュエル・ドゥヴォス)。遂に「ボレロ」を書きあげたラヴェルが、ピアノ奏者のマルグリットに聴かせると、同じメロディを17回も繰り返すという構成に戸惑うが、ミシアは、「世に出して」と励ましてくれるのだった。しかし、イダが考案した振り付けは、ラヴェルが「これは機械のシンフォニーだ」と説明したものとは全く違う、エロティックなダンスだった。そこでまた二人は口論になってしまうのだが……。
監督は、『ココ・アヴァン・シャネル』や『夜明けの祈り』でセザール賞にノミネートされたアンヌ・フォンティーヌ。自身の父が作曲家で、パイプオルガン奏者だったこともあり、いつか音楽とダンスに関する映画を作りたいと考えていたという。マルセル・マルナによる伝記をもとに、ラヴェルを豊かなイマジネーションで描き上げた。ラヴェルを演じたのは、『彼は秘密の女ともだち』のラファエル・ペルソナ。ラヴェルから痩せて冷淡な雰囲気を感じたラファエルは、10キロ減量し、残されたサイレントフィルムをみて役作りに没頭した。ラヴェルが生涯最後の16年間を過ごしたフランスのモンフォール=ラモーリにある家も撮影に使われたが、家の中のものはラヴェルが大切に取っておいた小物や、万国博覧会から持ち帰った中国の装飾品など、当時のままだった。
イダを演じたジャンヌ・パリバールは、ダンサーでもあり、ダンスシーンも代役ではない。劇中の「ボレロ」はブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、そして「亡き王女のためのパヴァーヌ」「道化師の朝の歌」などの名曲を、ヨーロッパを代表するピアニストの一人であるアレクサンドル・タローが演奏。観るものを音楽でも魅了する何とも贅沢な作品だ。
『ボレロ 永遠の旋律』
2024年8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
(C) 2023 CINÉ-@ – CINÉFRANCE STUDIOS – F COMME FILM – SND – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS
配給:ギャガ
公式HP:https://gaga.ne.jp/bolero