株式やFX投資をする人なら、キャンドルスティックと言えば、価格チャートの赤と青のローソク足を思い浮かべることだろう。日本、台湾、イラン、ハワイなど世界6都市を舞台にFX(外国為替証拠金取引)の世界で繰り広げられる手に汗握るマネーサスペンス映画『キャンドルスティック』が、日本と台湾の共同製作により、2025年7月4日(金)から公開となる。
阿部寛演じる主人公の野原賢太郎は、大手半導体メーカー「セミコン東京」のエリートプログラマーで天才ハッカーと呼ばれていた。しかし、野原は罠にはめられ、大規模な株価操作のハッキングの罪で逮捕され半年の服役後出所したばかりの身だった。FXセミナーの会場で、野原はトレーダーの杏子(菜々緒)と出会い、たちまち恋に落ちる。野原と杏子には、トレードの数字を赤と青の色で感じるという共通項があったのだ。
野原を罠にはめたリンネ(アリッサ・チア)は、銀座のホステスから「セミコン東京」の若社長の妻になり、副社長にまでのぼりつめた野心家だ。不正な株価操作で「セミコン東京」を乗っ取り、夫も破滅させ現在は台湾の最先端シリコンバレーにオフィスタワーを構える半導体のメーカーの幹部になっていた。リンネは次なる野望でFX会社を経営する甥のルー(リン・ボーホン)を巻き込み、一獲千金を狙って不正なマネー操作を仕掛けようとしていた。そしてデジタルに精通する野原とルー、野原の部下で今はハワイにいるロビン(デイヴィッド・リッジス)をまた利用しようとしていた。しかし今回はAIが見張る為替相場が相手となり、一段とセキュリティが厳しく、以前のハッキングの技術では通用しない。そこで野原が考えた作戦は……

一方、国籍もない移民・難民の子供たちを育てる「夜光ハウス」という施設が京浜工業地帯・川崎の片隅にあった。創設者の息子、吉良慎太(YOUNG DAIS)はFXセミナーの講師として著名になったが、税金がらみのトラブルを起こしてすっかり落ちぶれ、施設も巨額の負債をかかえ立ち退きを強いられていた。施設で育った中東出身のファラー(サヘル・ローズ)は、イランの首都テヘランにいる凄腕ハッカーの青年アバン(マフティ・ホセイン・シルディ)に助けを求める。

奇しくも夜光ハウスの立ち退きの日と、野原たちの「AIを騙す」という作戦の日が一致する。果たして、野原たち、夜光ハウスの運命はいかに……。
本作は、川村徹彦「損切り:FXシュミレーション・サクセス・ストーリー」(ポブラボ刊)の原作を、『下妻物語』(04)、『蟲師』(07)などのチーフプロデューサーの小椋悟が脚本を手がけた。監督は、本作が長編映画初監督となる米倉強太。米倉は「MEN’S NON-NO」の元専属モデルから、パリ・コレクションやGUCCIなどの広告映像ディレクションやMVの制作者という撮られるものから撮るものに転身した。阿部とは「MEN’S NON-NO」の先輩と後輩という間柄である。
金融商品の世界で繰り広げられているマネーゲーム。生き馬の目を抜くようなずるくて油断のならない人間が果たして勝ち取ることができるのか。「夜光ハウス」はどうなるのだろうか。スリリングな展開に目が離せない。
本作では台湾のアカデミー賞と呼ばれる金馬奨の主演女優賞を獲得した、リネンを演じるアリッサ・チアが、非常に魅力的だった。

リネンは「昔の東京で感じたのは日本の男と女の限りなく強い欲望だった。それが、今の日本の男は24時間戦えない。日本の女は美しくて優しい。けれども特徴も目的も……自分さえもない」と本作の中で独り言のように語る。野心家のリネンならではの日本の男女の捉え方が面白い。
さらに華やかなイメージを持つ菜々緒が、冒頭、黒縁の眼鏡をかけた地味なトレーダーの役柄も意外性があったが、恋をしてだんだん垢抜けぬけていく変わり様も見事だ。主役の阿部寛は、FXを理解し英語を堪能に操る、その演技力の高さを改めて感じた。その阿部寛と菜々緒の最後のシーンは見惚れる美しさがある。美しい男女が繰り広げるマネーサスペンス、FXを知らなくても十分楽しめる作品である。
『キャンドルスティック』
2025年7月4日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ティ・ジョイ
©2025CANDLESTICK PARTNERS
公式サイト:candlestick.jp