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渡辺えりが新派公演初登場で、水谷八重子、波乃久里子と共演 『三婆(さんばば)』

 八重子、久里子共に、『三婆』では、松子、駒代の役をそれぞれが演じており、渡辺も大竹しのぶ、キムラ緑子との共演で2度タキの役を経験済みという、三人にとってはなじみの芝居であるが、今回の公演に際して、渡辺は「4年前に初めてタキを演じたときは、若いつもりでお婆さんを演じていました。今回、実年齢の68歳のまま、今の苦しみ、孤独感、痛みを演じようと思います。この年代の女性たちが元気になるように、女性たちの励みになるように演じてみたいと思います。八重子さん、久里子さんは私の演技を何でも受け入れて返してくださると思っているので安心です」と新派の看板女優二人に絶大な信頼を寄せる。

 久里子は、「初めて『三婆』に出演したときは、59歳か60歳でしたので、お婆さん役にテレがありましたが、今回は若返ってやろうと思っています」と、八重子は、「ハツラツとした姿を見せ、元気をいっぱいお客様にお返しいたい」と役者としての貫禄十分。さらに渡辺は「目に見えない人間が支え合うというものを、この芝居では感じます。男社会で、男に頼って生活せざるを得ない、それが三人で暮して初めてわかるという、その演劇構造が面白く、八重子さん、久里子さんからは役の人柄や性格などが見えてきます」と、この芝居の真髄を語っている。

 明治時代、文明開化の波が押し寄せ、新たな演劇のムーブメントが巻き起こった中で、歌舞伎とは異なる新しい現代劇として生まれた<新派>。1888(明治21)年に、大阪新町座で壮士芝居として産声をあげた後、旧き良き日本の香りや美しさを明治・大正・昭和・平成と時代を超えて伝え続け、今年で135年を迎えた。

 波乃久里子は、61年16歳のとき初代水谷八重子(現・八重子の母)に憧れ新派に初参加し、翌年に入団した。二代目水谷八重子とともに劇団を支える看板女優である。「死ぬほど先代の八重子さんが好きでした。八重子先生が、〝叙情的リアリズム〟が新派だとおっしゃっていたのが、今でも心に刻まれています」と言う。

 渡辺えりは、「物事を顕微鏡で見るような芝居をするなんて、現代の演劇にはない。そんな小さな、些細な所作のようなものを拡大して見せてくれるのが新派の芝居の魅力。そして、内面のリアルさをナチュラルに演じるのが新派の真髄だと感じます。実際には湯呑に入っていないお茶をいかにも飲んでいるようにナチュラルを演じる。季節感みたいなことも、その芝居からは感じられます」と、憧れの新派初参加の昂奮を隠さない。

 そして、95年に二代目水谷八重子を襲名し、長年にわたり新派のリーダーとして劇団を引き入る水谷八重子は「明治・大正・昭和の日本人の細やかだった感情、色気、風情、生きざまを芝居で演じられる唯一の劇団だと自負しています。日本人の心の故郷のような気がしていて、それを残すという意義を感じています。だから、明治の言葉は明治のイントネーション、昭和の言葉は昭和のイントネーションで語らなければいけない、そんな芝居をお見せできるのが新派です」と、新派女優としての誇りを見せつけてくれた。

 BS放送などでも昭和の流行歌が特集され、〝昭和は遠くなりにけり〟と昭和を偲ぶ人が決して少なくない令和の時代。新派公演『三婆』の舞台は、昭和に出合える芝居として、観客を惹きつけるだろう。


新派百三十五年記念 六月新派喜劇公演
三婆(さんばば)

原作:有吉佐和子
脚本:小幡欣治
演出:齋藤雅文
出演:水谷八重子 波乃久里子 渡辺えり
松本慎也 鴫原桂 上脇結友 田口守 ほか
〔公演日程〕6月3日(土)~6月25日(日)
〔会場〕三越劇場
〔問〕チケットホン松竹0570-000-489または03-6745-0888(10:00~17:00)

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