Bunkamuraが、日本と海外のクリエイターの共同作業により、優れた海外戯曲を今日的な視点で上演する企画に取り組んできたDISCOVER WORLD THEATRE(以下DWT)シリーズ。その第14弾が、9月10日に東京・世田谷パブリックシアターで幕を開け、上演中だ。今回の公演は、『トップ・ガールズ』や『クラウド・ナイン』など数々の話題作で知られる、現代イギリス演劇を代表する劇作家の一人として知られるキャリル・チャーチルの二作品。しかも、二作品連続上演という、なんとも刺激的な企画である。
一作目は2021年に上演されたチャーチルの最新作で日本初演となる『What If If Only-もしも もしせめて』で、上演時間は20分余り。二作目は2002年に初演され22年にはローレンス・オリヴィエ賞リバイバル部門にノミネートされた名作『A Number-数』で、こちらの上演時間は60分余り。二作品の演出を手がけるのは、これまでDWTシリーズで『るつぼ』(16年)、『民衆の敵』(18年)、『ウェンディ&ピーターパン』(21年)の三作品を演出し、すでに日本の演劇ファンにもその名を知られるジョナサン・マンビィ。10年に、英国で『A Number』を演出した経験があり、「父と息子の一筋縄ではいかない対話が見事に展開された」と称賛されている。
人間のクローンを作ることが可能となった近未来を舞台にした、父と息子の会話劇『A Number-数』で二人芝居に挑むのは、堤真一と瀬戸康史。堤は、秘密を抱えて葛藤する父を演じ、瀬戸は、見た目は同じでも境遇も性格も異なるクローンを含む息子たちを3役で務める。堤は、これまでにマンビィが手がけてきたDWTシリーズの3作すべてに出演しており、「役者から生まれるものを大事にして、役者がうまく階段を上がれるように導いてくれる」と、マンビィとも絶大なる信頼関係を築き上げている。初日前会見では「おろかな父親が、罪の意識を抱いたまま生きてきたその部分がしっかりと出せれば」と。
昨年、『笑の大学』で、二人芝居を初めて体験した瀬戸は、堤とは初共演で、コメディからシリアスまで幅広い表情を見せてくれる堤と初めて一緒できることが楽しいと。また、マンビィのワークショップに参加したことはあるが、演出作品に出演するのは初めて。「本に書かれていない、その前後の物語をマンビィさんは紐解いてくれて、それがあったから、重いテーマながら物語の内容が理解できた」とも。堤と瀬戸は稽古に入る前に、クローンについて遺伝子工学の専門家から、倫理的な部分も含めて講義を受けたという。役を演じるということは、役の人生を生きることというのを耳にするが、役づくりというのは物語の世界観を理解することから始まるのかもしれない。父と息子のかみあわない会話劇で、堤と瀬戸が相手役として信頼し合う中から生まれるいかなる芝居によって、どのような演劇体験を観客にもたらしてくれるのか、緊張感ある60分である。