散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第58回 2025年2月26日
散歩して撮影している時、必ず一度はカフェで一休みする。その時間が楽しい。歩かないで、カフェに入る事はまずない。歩いた後のカフェタイムはもうワンセットだ。
昔の個人が経営している喫茶店は、店主の個性が反映された店内の意匠が楽しめた。今は全国一律のデザインだから、その統一に安心感を覚える事を楽しみに変えるしかない。
最近、テーブルに1時間とかの時間制限を明記しているケースをよく見かける。勉強する学生がいるらしい。小説家の森茉莉さんは、近所の喫茶店を書斎がわりにして一日中テーブルを占拠していた。そんな事はもう許さない時代になったのだ。
今やカフェは、飲食を提供するところではなく、時間を販売している場所なのだ。
その内、メニューが、15分、30分、1時間、2時間、とかになるに違いない。それ以上の時間提供は、業種が別なのだ。
この文章もカフェで携帯画面に書いている。もちろん、30分以内に書いて、店をあとにしたのは言うまでもない。(笑)



はぎわら さくみ エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の特別館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。