スマホ散歩

第65回【萩原朔美 スマホ散歩】 ホームにある部屋

散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。



第65回 2025年9月29日


今1番気に入っている写真は、プラットホームに設置されたガラス張りの小さな部屋だ。それが私には、金魚鉢のように見えて、何故か優しい気持ちを起こさせる。殺伐とした駅に現れる金魚鉢のような、小さな部屋。中で過ごしている人は大抵下を向いている。



携帯を操作しているか、束の間うとうとしているのか。皆んな自室で無防備な姿を晒しているように見える。ガラス張りの部屋だから緊張感が湧き起こるかと思えるのに、ホーム上にある部屋は何故か安堵感が支配するのだ。

そのリラックスした姿とガラスケースの小部屋との組み合わせが、なんとも可愛らしいく思えるのだ。この写真だけは沢山撮影して、いつか写真集に纏めたいと思っている。



はぎわら さくみ エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の特別館長、金沢美術工芸大学客員名誉教授、、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。



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