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散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第69回 2026年1月29日
写真に映らないものを写したくなる日がある。風の強い時だ。昨日は、手袋をしていても指先が痺れるほどの冷たい風だった。
風は、勿論写真には映らない。そこで、風が通り過ぎた後の光景や、風が何かを揺らしている様にレンズを向ける。なぎ倒された自転車や、フラッグだ。私は撮影していると、必ず映画の風のシーンが蘇ってくる。
映画に登場する風は、カーテン、洗濯物、草や木の枝の揺れだ。大草原を渡る風をヘリコプターを使って撮影されたシーンなど忘れがたい。地面に灰をまいて、竜巻のような砂塵の強風を表したり、映画の中の風はいつでも派手なので目に焼きついてしまうのだ。
私のは映画と比べると地味で、昨日は、のぼり旗を撮った。バタバタと音を出してはためいていると、健気に働いているように思えてくる。そして、風は自分が揺らした木のことは覚えていないが、自分を揺らして去っていった風のことはいつまでも忘れない、という竹宮恵子さんの漫画にあった言葉が蘇ってくる。風は、人の心も揺らして去っていくのだ。
はぎわら さくみ エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の特別館長、金沢美術工芸大学客員名誉教授、、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。