第31回【成城シネマトリビア】  浅丘ルリ子、吉永小百合、若尾文子ら日活&大映スター、成城に現る!

 大映の看板女優・京マチ子が成城の商店街を歩くのは、東宝作品の『沈丁花』(66年/千葉泰樹監督)。成城四丁目にあった彼女の家は、近所に嫁いだ奥様の言葉を借りれば「まるで天国のよう」な豪邸。西隣には庭に大きな欅の木が立つ千秋実のお屋敷があり、その向かい側にはのちに石原裕次郎が越してくる、といった。まるでビバリーヒルズ状態。京は本作で「ル・ソレイユ」というブティック前を歩き、「ロレアル美容室」でパーマを当てる。‶ライオン長屋〟と呼ばれた商店街に位置する、この美容室の本当の店名は「ビューティー成城」といった。

美容室「ビューティー成城」があったライオン長屋と喫茶店「シベール」があった通りの現在。ここを京マチ子や松原智恵子が歩いたと思えば、感慨もひとしお(筆者撮影)

 園まりが初めての主演映画『逢いたくて逢いたくて』(66年/江崎実生監督)を撮ったのも日活である。歌手の園まりにそっくりの女子大生(これを園まり本人が演じる)が、TV番組「そっくりショー」(註5)に出演したことから巻き起こる騒動を描いた音楽映画で、女子大生が‶お手伝いさん〟のアルバイトをするのが、前回ご紹介した成城五丁目の旧中村邸である。
 この邸宅は、古澤憲吾監督・植木等主演の『ニッポン無責任時代』(62年)でハナ肇の氏家社長邸となった他、成城在住の並木鏡太郎監督作『地下帝国の処刑室』(60年)や、『狂熱の果て』(61年/山際永三監督)といった新東宝・大宝映画でもロケ地となった豪邸。大谷石の礎石に垣根が乗る塀構えは、誠に成城らしいもので、誰が見ても〝高級住宅街の大邸宅〟の趣き。大映テレビ制作の「少年ジェット」(CX系)でも、ブラックデビルとジェットの対決場面が当邸宅前の路上で撮影されている。
 他にも、日活の人気女優松原智恵子が『愛するあした』(69年/斎藤耕一監督)という歌謡映画で、喫茶店「シベール」前を伊東ゆかりとともに歩いたり、大映末期を支えた『女賭博師』シリーズの一篇『女賭博師丁半旅』(69年/井上芳夫監督)で江波杏子が成城の不動橋(富士見橋の西側に位置する)を渡ったり、さらには大映最後のヒロイン・関根恵子(現高橋惠子)が『新高校生ブルース』(70年/帶盛迪彦監督)で成城のいちょう並木を歩くなど、日活、大映の俳優たちが成城の街に現れた事例は枚挙に暇がない。
 珍しいのは、日活末期の怪作『ハレンチ学園』(70年/永井豪原作、丹野雄二監督)でヒロイン・柳生みつ子の家=柳生家が成城のF邸(註6)に設定されていて、児島みゆきや雷門ケン坊などが当邸宅前に姿を現すことだ。浦山桐郎監督によるにっかつロマンポルノ大作『暗室』(83年)でも、木村理恵や清水紘治が成城商店街や桜並木を歩いているが、ここまでいくと、もはや日活・大映スターとは言えず、本稿はここいらでお開きといたしたい。

(註1)俳優になった当初は成城にあった水の江瀧子の家に下宿していた石原だが、東宝への移籍話が発覚したことで、日活から(何故か東宝撮影所のすぐ近くに)大きな住まいを供与される。やがて富士見橋からも近い国分寺崖線脇に、さらに広大で見晴らしの良い土地を得たものの、遺跡が出たことで長く家を建てることができなかった。

(註2)一作目は51年公開の千葉泰樹監督作、二作目は58年に岡本喜八監督が撮った『若い娘たち』(どちらも東宝)、三度目の映画化が本作となる。

(註3)田代の同級生役は太田博之。のちに食品チェーン店を興し、成城に事務所や自宅を持った。

(註4)松浦靴店は牛込から成城学園についてきた店のひとつ。現在でも営業を続けるニイナ薬局や成城石井、村田永楽園などは、1927年の小田急線開通時に店を開いた老舗中の老舗である。

(註5)「そっくりショー」は1964年に始まったエースコック社提供(一時期のみ)の公開バラエティ番組。有名人に似た一般人が複数出演してチャンピオンを決定、ご本人と対面するのが〈売り〉だった。

(註6)土塀が目立つF邸は、その後、『三婆』(74年/中村登監督)で物語の舞台となった。


高田 雅彦(たかだ まさひこ)

1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

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