第13回【私を映画に連れてって!】 岩井俊二、行定勲、堤幸彦、篠原哲雄、北村龍平、望月六郎、飯田譲治の7人の監督の短編映画集『Jam Films』でショートフィルム革命!

 ただ、ルールを決めなくてはいけなかった。僕のメインの役割はそれだ。

 幸い、縁のあったセガ(SEGA)が製作費を出してくれることになった。短編映画の製作経験は無かったが、何となく1本1000万程度で7本で7000万円。良い時代だったのか、セガはOKしてくれた。ちょうどポニーキャニオンからアミューズに行くことになり、アミューズは配給部門もありアミューズ・ピクチャーズが宣伝もやってくれ、シネ・アミューズをメイン館で上映してくれることにもなった。一抹の不安としては短編映画に長編と同じ映画料金を払って観てくれるかだ。過去にもほぼ例が無い。

 各監督には「ジャンルは自由でいい」と伝えた。望月監督からは「僕はエロっぽい感じですかね?」「エロティシズムでお願いします」。賞狙いよりは娯楽作品。1つだけ条件のようなリクエストとしては、「主演には有名(名前を知っている)俳優が望ましい」、と。プラス、長さは15分程度の作品で。7本で110分以内を目指した。

 劇場公開するならヒットさせたい。これはそれまでの僕の志向でもある。製作費も全員同額とした。

 面白いなと感じたのは、撮影のスタイルが皆、違っていたことだ。アイデアや作品自体のテイストはバラバラになることは予想していた。それが望ましい。ただ、行定監督は35ミリフィルム撮影に拘った。北村監督は最新のHDカメラだ。岩井監督は秋葉原で? 買ってきたというホームビデオだった。スタッフも監督1人だけだ。この独自性こそ「映画監督」だと思った。この7人で連続ドラマは出来ないだろうとも。

 岩井俊二=広末涼子、行定勲=妻夫木聡、飯田譲治=大沢たかお、堤幸彦=佐々木蔵之介、篠原哲雄=山崎まさよし、望月六郎=吉本多香美、北村龍平=北村一輝……とルールを考慮したキャスティングになり、行定監督の『JUSTICE』には当時17歳で映画初出演の綾瀬はるか等、その後、大活躍する俳優も加わった。

▲『JUSTICE』という、高校の体育の授業でのブルマをテーマにした作品を撮った行定勲監督とは台北映画祭に出かけ、『非情城市』などで知られるホウ・シャオシェン監督とも食卓を囲んだ。『JUSTICE』は、〝これが男の子〟という世界を、監督自身の青春時代の体験を通して面白おかしく見せる、監督曰く『GO』の兄弟版とも言える青春ドラマで、主演は妻夫木聡。綾瀬はるかのブルマ姿がまぶしい。

 撮影現場にも行きながら、長編より短編の方が、よりその監督の個性のようなものが色濃く現れることに気付いた。自由に表現している。此方は、中味には口を挟まない。

 認知度を上げる為に、色んな手も打った。公開を2002年12月28日に決め、7人の監督による短編映画を集めたオムニバス『Jam Films』は、お正月映画になった。10月の東京国際映画祭の特別上映作品にもなり、7本の映画の監督、キャストが壇上を賑わした。短編の集合体ではあるが、長さとしては1時間49分の長編映画でもある。海外の映画祭にも果敢に出て行った。アメリカ、フランス、オーストラリア、釜山、台北など、短編でもこんなに海外の映画祭で上映出来たことは新鮮だった。

 釜山映画祭は短編映画部門が充実していた。ソウルからも多くの長編の映画プロデューサーが釜山で短編を観て、将来の長編映画の有望な監督としてピックアップしていた。行定監督と一緒に行った台北映画祭などで場内が爆笑になった時は、海外でも観てもらえると感じた。この時、一緒に食事したホウ・シャオシェン監督と行定監督は今でも交流し合っている。

 一方で、日本のYahooが伸びて来て、ようやく映画を観てもらえるくらいの画像(画質)が伴って来ていた。本来はタブーなのだが、Yahooを見る人に映画の存在を知ってほしいと考え、公開目前に人数は限定したが、7作品全部配信した。無料なので、今ならオンライン試写会のようなものだろうか。ここで知りたかったのは観た人が、どの作品が好みなのかだ。短編を映画館まで観に来てくれる事は可能なのか……。リアクションがとても良く、もしかしたら……の期待は持てた。ワイドショー等にも取り上げられ、長編のような受け取られ方もしながら公開日を迎えた。

 思わぬヒットになった。黒字にもなり、短編もビジネスになるのかと一瞬は考えた。ただ、世界で短編映画の大きな役割は、長編映画を目指す人たちのステップであることだった。短編を創っている監督たちの殆どは長編を撮りたい人々だ。元々、僕も長編映画のプロデューサーである。「短くてもイケる。」というコピーも考え、短編でも映画館で観てもらえることは実感できたが、これをそのまま続ける気にはなれなかった。でも、長編であれ、短編であれ、面白い作品は楽しめることは間違いなかった。

▲『Jam Films』では潤沢な宣伝費もなかったためか、筆者も相当数のメディアでの取材を受けることになった。日本では初となる短編映画企画の劇場公開に、多くのマスコミが期待を寄せ、注目していたことがわかる。その企画・発案者であるプロデューサーとしての筆者に取材が殺到したのも、当然の成り行きだろう。
▲『Jam Films』の上映で、アメリカ、フランス、オーストラリア、韓国、台湾の5カ国の映画祭に出かけた筆者。オーストラリアには、『コールドスリープ』の飯田譲治監督と一緒だった。『コールドスリープ』は、毒のあるショートショートといった趣のコメディタッチのSF作品で、主演を務めたのは大沢たかお。作家の筒井康隆も出演している。

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