25.02.28 update

第22回【私を映画に連れてって!】元フジテレビ局員が語る〝フジテレビ騒動〟で顧みる〝フジテレビイズム〟とは。そしてテレビ局とは、映画とは、ドラマとは。



 さらに『瀬戸内少年野球団』(篠田正浩監督/1984)がある。夏目雅子主演で、様々な賞に輝き、ヒットもした。ほぼ、全額フジテレビ出資の映画だが、クレジットには「フジテレビ」及び関係者のクレジットはない。元々、原作者である阿久悠さんのために「YOUの会」の有志で結成され、映画化を目指していた。そこにぼくの師匠筋でもあるヘラルド・エースの原正人社長が中心となり、映画にするにあたりフジテレビに相談、出資の大部分はフジテレビが持つことになった。今では考えにくいが「製作:YOUの会+ヘラルド・エース」のクレジットでフジテレビ関係クレジットは無い。ぼくも製作、宣伝と走り回り、夏目雅子さんを自宅に送っていくこともあった。でも、なぜか、そのフジテレビのスタンスを、当時「カッコいいな」と感じた。「楽しくなければテレビじゃない……」だけでは無い、裏方に回って良い作品を生み、前面に出ずに公開する。フジテレビの「余裕」すら感じた。外部ではあるが「人」に乗ったのである。ビジネス以前の何かに……。これが「フジテレビイズム」だと思った。


 松本隆監督のデビュー映画『微熱少年』(1987)はじめ、会社から「手伝ってこい!」と言われ、様々な映画に関わった。その場合の多くは事前に放送権を購入(先買いで先方の映画制作費に充当)、テレビ宣伝面での協力だった。


 その頃は、本当に多くの周りの方から期待もされ、それに応えようとした。フジテレビの視聴率が良いことが背景にもあったが、イズムとしては「面白いことを一緒に出来る」会社であったように思われていたと思う。


 ぼくは『スワロウテイル』(1996)製作のため、フジテレビを1995年に出る(ポニーキャニオンへ出向)ことになる。12年間、民放視聴率3冠王を続け、1993年に途切れた翌年である。


 1997年、新宿区河田町から港区台場に本社移転。8月にフジ・メディア・ホールディングスとして株式上場。


 そこから10数年、フジテレビに戻らず、ある時に突然、お台場勤務になった。


 社風というか雰囲気が大きく変化していた。新しいことにチャレンジする機運が落ちていた。過去が良かった……とは安易に言えないが、クリエイティブに関しては昔の「イズム」は消えていた。「自分の会社が中心」で、やたら「コンプライアンス」とかの言葉が飛び交う。上場した影響もあるだろう。


 年齢に関係なく、自由にモノが言えた昔の風土。若者がアイデアを出し、経験者がジャッジ、サポート、フォローする……。ぼくが『私をスキーに連れてって』のプロデューサーをやったのは28歳の時だった。

▲淡路島出身の阿久悠の自伝的長編小説の映画化で、終戦後の淡路島を舞台に、野球を通じて女教師と子どもたちとの心のふれあいと絆を描いた1984年6月23日公開の『瀬戸内少年野球団』。女教師を演じた夏目雅子の遺作となった。監督は篠田正浩、脚本は田村孟が手がけた。撮影の宮川一夫、美術の西岡善信、衣装考証の朝倉摂、音楽の池辺晋一郎ら、スタッフの技が光る映画だ。両親を亡くした級長を演じていたのは、当時12歳の山内圭哉。現在は、NHKの連続テレビ小説「おむすび」での佐野勇斗演じる四ツ木翔也の父親役、映画『ゴールデンカムイ』、舞台『パラサイト』『花と龍』などで活躍中である。伊丹十三、大滝秀治、加藤治子、ちあきなおみ、郷ひろみ、岩下志麻らに加え、渡辺謙が郷ひろみの弟役で映画デビューを果たしている。また、三上博史が、転校生の少女(佐倉しおり)の兄役で出演している。製作発表には、篠田監督、夏目、佐倉、岩下、阿久らが出席した。山内少年の顔も見える。

1 2 3 4 5

新着記事

  • 2025.04.18
    小椋佳、きたやまおさむ、クミコ、清水ミチコらに加え...

    9月26日(金)開催決定

  • 2025.04.18
    世界のホームラン王・王貞治の生誕の地「八広」を行け...

    「八広駅」散策

  • 2025.04.17
    【お出かけ情報】一生に一度は訪れたい「花と光の楽園...

    4月12日日(土)~5月18日( 日)

  • 2025.04.17
    映画雑誌「SCREEN」と近代映画社の仕事を振り返...

    4月5日(土)~7月27日(日)

  • 2025.04.17
    【お出かけ情報】成城100年! 〈コモレバWEBマ...

    5月18日、25日開催

  • 2025.04.17
    【お出かけ情報】残雪の美しい富士山と芝桜の絶景が楽...

    4月12日~5月25日(日)

  • 2025.04.17
    ブレッド&バターの「あの頃のまま」の作詞作曲「呉田...

    ブレッド&バター「あの頃のまま」

  • 2025.04.15
    ツツジが咲き誇るGWの頃にファンタジックで愛があふ...

    4月25日(金)全国公開

  • 2025.04.15
    【箱根びと訪問】生まれ変わったホテルの支配人として...

    奈須 由美(はつはな 支配人)

  • 2025.04.11
    映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』でのみずみすしい演技...

    公演:東京、大阪、新潟、長野

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!