—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—
萩原 朔美さんは1946年生まれ、2023年11月14日に77歳、紛れもなく喜寿を超えているのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません!
連載 第29回 キジュを超えて
街で見かける看板の文字が、いきなり意味深なフレーズに思えてくる事がある。
これも、老化現象のひとつかも知れない。
「この先行き止まり」
を見ると、そうかいよいよ人生先が無いか。などと思えて気落ちしたり、あるいは、先に行くとそこは世界が静止したのんびりした生活が待っている。そう感じたりもする。(笑)
「スピード落とせ」
を見かけると、そう言えばやたらと一日が早い、一カ月が早い、
一年など数ヶ月に思えてしまう。
どうにかスピードを落としたいなあ、などと思ったりする。
「通り抜けできません」
の立て看板があると、そうか、加齢現象は逃げられないんだ。立ち向かうしかないなあ。などと考えたりするのだ。
しかしまあ、街は立て看板だらけだ。それも、禁止ばっかり。たまには、老人のために、希望が湧いてくる文字の立て看板設置をよろしくお願いします。(笑)
そうそう、今朝は、
「接触事故注意」
ってのがあった。彼女に接近したのは事故だったなあ。などと、過去を振り返ってしまった。『振り向くな、そこには夢がない』寺山修司。
はい!確かに!思い出に振り回されても無駄ですね。(笑)

第28回 私の年齢観測
第27回 あゝ忘却の彼方よ
第26回 喜寿を過ぎて
第25回 生前葬でお披露目する「詩」
第24回 我を唱えず、我を行う
第23回 老いは戯れるもの
第22回 引きこもりの愉しみ
第21回 楽しい会議は老化を防ぐ
第20回 記録はアートになりたがる
第19回 老いが追いかけてくる
第18回 気がつけばおばんさん気分
第17回 新しい朝が来た、希望の朝だ♪
第16回 年齢とは一筋の暗闇の道
第15回 今こそ<肉体の理性>よ!
第14回 背中トントンが懐かしい
第13回 自分の街、がなくなった
第12回 渡り鳥のように、4箇所をぐるぐる
第11回 77年余、最大の激痛に耐えながら

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長特別館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。