第24回【私を映画に連れてって!】浅田次郎『地下鉄に乗って』、大沢在昌『新宿鮫』で体験した映画プロデューサーと原作者との密な関係

 昔は作家と直接会うことから映像化が始まることが多かったが、最近は出版社の担当編集者などが間に入って、エージェント的な役割をしてくれることが増えた。編集者も、作家とプロデューサーの間、あるいは自分の所属する出版社の意向などを汲みながら進めるので大変なことが多い。ただ、原作の映像化は原作者ありきが原則だ。

『地下鉄に乗って』(浅田次郎:著/篠原哲雄監督/2006)の映画化の際は、文庫本が「講談社」と「徳間書店」から発売されていた。我々は「講談社」の編集者と話をしながら、作品の方向性や監督の意向、プロット、脚本などを見てもらいながら進めていた。一方で、ある時に「徳間書店」にも映画化のオファーがあって、脚本を進めていることが発覚。しかも、そのプロデューサーは大先輩で、仕事をご一緒したことのある尊敬する方だった。

▲浅田次郎が吉川英治文学新人賞を受賞した1996年に刊行された小説『地下鉄(メトロ)に乗って』。2006年に篠原哲雄監督により映画化され、主演を堤真一と、NHK連続テレビ小説「オードリー」でヒロインを演じた岡本綾が務めた。共演は大沢たかお、常盤貴子、笹野高史、吉行和子ら。映画のチラシは、原作者・浅田次郎を前面に出したものになった。テレビドラマ化、ミュージカルとして舞台化もされている。

 
 困ったことになり、編集者に、浅田次郎さんご本人に現状をぼくが直接話す機会を作ってもらった。作家としては、まさか同時に1つの作品で2つのプロジェクトが進んでいるとは知らず、他意はなかった。ぼくも「此方を優先してほしい!」とは言えず、最終的には浅田さんの判断になった。プロデューサーとしては、その時点できちんと契約書を交わすべきだったと反省も残った。ある程度のシナリオを原作者に了承を得てから、という時代ではあったかもしれないが、やはり、ゼロの段階でオプション権契約をしていれば二重の進行は避けられる。オプション契約後に作家側から、契約を見直すことも可能である。

 その後、映画の記者発表、完成試写会や、プロモーションにも協力していただき(撮影にもカメオ出演されている)感謝でいっぱいだった。映画上映の最終日、丸の内ピカデリーでの最終回。メイン館への挨拶も兼ねて此方は行くのだが、上映終わりの観客の中に浅田さんの姿が。「この映画好きなんだよ」と言うような有難いお言葉をいただき、諸々の事も救われた気持ちになった。

 その後、『蒼穹の昴』の映画化にもチャレンジさせてもらった。あまりに壮大で、映像化に時間がかかり過ぎている時に、NHKから日中合作で連続ドラマ化の話が来た。

▲1996年に刊行された浅田次郎の長編小説『蒼穹の昴』。清時代の中国を舞台とした歴史小説で、浅田次郎は「私はこの作品を書くために作家になった」と、本の帯でコメントしていた。直木賞受賞の『鉄道員(ぽっぽや)』をはじめ、『ラブ・レター』、『壬生義士伝』、『憑神(つきがみ)』、『オリヲン座からの招待』、『日輪の遺産』、『王妃の館』など多くの小説が、映像化、舞台化されており、『蒼穹の昴』も、2010年に日中共同制作でテレビドラマ化され、日本からは田中裕子が西太后役で出演している。2022年には宝塚歌劇団により舞台化もされた。

 
 浅田さんからは「映画化もやってね」とのことで了承を得た。このドラマは25話前後(中国は話数が多い)でNHKと、中国のNHKと言われるCCTV夜帯で同時期放送になった珍しい作品である。NHK内でのドラマの完成試写の際に浅田さんから「映画もよろしくね!」と言われたのに、未だに約束を果たせてなく、今でも自分の力不足を感じたままである。

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