—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—
萩原 朔美さんは1946年生まれ、2023年11月14日に77歳、紛れもなく喜寿を超えているのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません!
連載 第32回 キジュを超えて
大学病院の問診表やアンケートは、なるべく正確に記入した方がいいと思っている。そのデータによって治療方法が将来変化するかも知れないからだ。
前立腺癌患者の私は、年に何回か大量の質問が列記されたアンケートに答えている。
その中で,いつも適当に答えてしまい、後で後悔する質問がある。
一日何回排尿のためトイレに行くか。
就寝から朝起きるまで、何回トイレに行くか。
この二つだ。数えようとしてもすぐ忘れてしまうのだ。
そこである時閃いた。便器に腰掛ける度に携帯で撮影する。そうすれば正確な回数が把握できる。歩きながら、常に携帯で撮影しまくっている私だから、忘れる事がない。
で、私は現在、毎日トイレで撮影を続けているのである。老人になっても忙しいのだ。ナルシストでも何でもない。医学のため、正確なデータの為である。(笑)



第31回 目の奥底
第30回 老いも若きも桜の樹
第29回 僻んではいません
第28回 私の年齢観測
第27回 あゝ忘却の彼方よ
第26回 喜寿を過ぎて
第25回 生前葬でお披露目する「詩」
第24回 我を唱えず、我を行う
第23回 老いは戯れるもの
第22回 引きこもりの愉しみ
第21回 楽しい会議は老化を防ぐ

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長特別館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。