今でもスタジオ入口に『七人の侍』と『ゴジラ』の壁画を掲げる東宝。〝明るく楽しいみんなの東宝〟を標榜し、都会的で洗練されたカラーを持つこの映画会社は、プロデューサー・システムによる映画作りを行っていた。スター・システムを採る他社は多くの人気俳優を抱えていたが、東宝にもそれに劣らぬ、個性豊かな役者たちが揃っていた。これにより東宝は、サラリーマン喜劇、文芸作品から時代劇、アクション、戦争もの、怪獣・特撮もの、青春映画に至る様々なジャンルに対応できたのだ。本連載では新たな視点から、東宝のスクリーンを彩ったスタアたちの魅力に迫る。

少年・少女期に映画やテレビを見て、あまりの恐ろしさに寝るとき電気を消せなくなったという経験は、どなたにもあるのではないか。筆者にとってそうした作品は、テレビなら「恐怖のミイラ」(61/NTV系)、そして映画なら『マタンゴ』(63/東宝)にとどめを刺す。
東宝映画では豊田四郎監督の『四谷怪談』(65/お岩は岡田茉莉子)も子供には相当ショッキングな作品だったが、本多猪四郎&円谷英二の名コンビによる『マタンゴ』には心からの恐怖を覚えたものだ。
封切当時、〝変身人間〟シリーズなる呼称など未だなかった本作の併映作は、なんと『ハワイの若大将』。当時、若大将=加山雄三の活躍を楽しみに劇場に駆けつけた少年少女たちは皆、思いもよらぬ〝恐怖のどん底〟に突き落とされたのだった。

地位や名声はあるが、いかにも一癖ありそうな七人の男女がヨットで航海に出て、嵐に遭い漂着する島は、キノコ以外の食べ物がほとんどない無人島。浜に打ち上げられた難破船(これがまた堪らなく不気味!)には、キノコの標本と「キノコを食べるな」と書かれた航海日誌が残されている。
そして、船内の鏡は何故かすべて割られており、雨が降りしきる晩、甲板をピチャピチャと音を立ててやって来るのは、醜く顔が変形したキノコ人間(これを演じたのが天本英世であることは、のちに知った)だった……。
と、文字で書くとどうということもないのだが、これを小学3年生で見た筆者の恐怖感たるや、今思い出しても背筋が凍るほど。色鮮やかなカビやキノコに、言いようのない不安を覚えた方はさぞや多かったに違いない(※1)。