連載

第13回『東宝映画スタア☆パレード』島崎雪子&上原美佐 黒澤映画で輝きをみせた名ヒロイン二人

 その後も上原が意に反して出続けた作品は、宝田明との共演作『大学の28人衆』と『ある日わたしは』、鶴田浩二の相手役を務めた時代劇『戦国郡盗伝』、やはり岡本喜八監督作で馬賊に扮した『独立愚連隊』、稲垣浩による神話劇大作『日本誕生』(以上59年)等々。


 翌60年も、松林宗恵監督作で佐藤允・水野久美との共演作『現代サラリーマン 恋愛武士道』、同じく松林作品で夏木陽介の許嫁に扮した『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』と渋々仕事は続けたものの、自らの才能に限界を感じていた上原は岡本喜八作品『大学の山賊たち』を最後に、再度引退を宣言。結局九作品に出演したのみで、映画界から完全に姿を消す。
 演じた役柄が馬賊を除いて、ほとんどが健康的なお嬢さんやお姫様役ばかりだったのは、会社が彼女の限界を悟っていたからに違いなく、現に東宝も慰留することはなかった。

▲『太平洋の嵐』、『大学の山賊たち』紹介グラビア(『東宝映画』60年4・5月号/寺島映画資料文庫提供)



 上原は62年に一般男性と結婚。没したのは黒澤明や三船敏郎、千秋実が住んだ成城の地だったというから、『隠し砦の三悪人』の繋がりは最後の最後まで続いていたことになる。


 ちなみに、『隠し砦の三悪人』には〝隠れたヒロイン〟と言うべき女性が登場する。それは、雪姫一行が敵方に捕らわれたとき、「姫は私です!」と身代わりを申し出る百姓娘の樋口年子。
 上田吉二郎の人買いに売られそうになったところを雪姫に救われ、その恩義から敵方はおろか、又七・太平のずる賢い百姓からも姫を護る役目を果たす〈名もなき百姓娘〉に、シンパシーを覚えた方もさぞや多いことだろう。


 樋口はその後も、『悪い奴ほどよく眠る』(60)で藤原釜足が演じる和田課長補佐の〈娘〉、『椿三十郎』(62)では三船=三十郎から「お前たち(九人の若侍)より頼もしいぜ」と言われる〈頼もしき腰元〉役に起用されるなど、まさに黒澤映画の裏ヒロインと称すべき女優さんであった。


 あなたのお気に入りの黒澤ヒロインは、どの作品のどの女優だろうか?



※1 東宝・黒澤関連では原節子が3位、高峰秀子が9位、香川京子が10位、桂木洋子が12位にランク。

※2 ジョージ・ルーカスは『スターウォーズ』で牢に捕らえられたレイア姫を撮るにあたり、又七と太平が息をのんで眺めた雪姫の寝姿と全く同じポーズを取らせている。



高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。






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