連載

第29回【私を映画に連れてって!】初めて合作映画に参加した三上博史、ユン・ピョウ主演『孔雀王』で体験した香港映画スタイル

 その流れだったのか、『皇帝密使』(1985/ツイ・ハーク監督/サミュエル・ホイ主演)の応援隊として香港へ行き、日本公開でのプロモーション番組を作ったりもした。

 香港映画のヒット作の多くは<ゴールデンハーベスト>グループが製作していた時代。ジャッキー・チェンらもそのグループのメンバーだったと言える。

 しかも、彼らは『キャノンボール』(1981/香港・20世紀FOX合作)でアメリカ進出。その後『レッド・ブロンクス』(1995/ゴールデンハーベスト製作/ジャッキー・チェン主演)では、全米興行収入初登場1位というアジア映画初の快挙を成し遂げる。日本映画がアメリカで大ヒットすることなど無い時代だ。

 香港とのアクション映画の合作の原作として選んだのが「週刊ヤングジャンプ」で連載中だった『孔雀王』(荻野真:原作)だ。日本の密教ミステリーと香港得意のアクションを合体させた面白い映画を目指したのだろう。


 ところが、プロデューサーのぼくの経験値の無さもあり、合作映画としての相互の意見の落としどころが読めない日が続く。

 キャスト、スタッフは双方から参加することでスタートした。

 製作費は半々。8億円弱をそれぞれが3~4億円の出資で。その後の『力道山』(2004/韓日合作)もそうだったが、スタッフ配分をどうするか、撮影地は、言語の問題など、出資、投資だけではない「共同製作」の難しさが伴う。

 お互いに、まずキャストを決めよう、となり、ちょうど『私をスキーに連れてって』(1987)のあとで三上博史さんが人気急上昇していたので、日本側の主演に彼と、ヒロインに安田成美さん、そして緒形拳さんの出演予定を伝えた。香港側からは「こっちは誰がいい?」と聞くので、「そりゃ、ジャッキー・チェンが最高ですね」と言った。「そうか、じゃあ、1億2千万円くらいは必要だけど、日本側のキャスト費は3人で幾ら?」のような会話になった。日本の俳優費は香港に比べると桁が1つ違うくらいといってもよく、3人足しても全く釣り合いが取れなかった。

 そこで「香港で人気NO2は?」と聞くと「ユン・ピョウね」となり、「ギャラはジャッキーの半分くらいね」と。ユン・ピョウも大好きな俳優だったので「日本の俳優3人足しても足りないな……」と思いつつ、ここはユン・ピョウで手を打った感じになった。香港はスター主義だ。まず俳優、それから企画・シナリオ、それから監督を決めたりする。『孔雀王』の時も監督を決めたのは最後だった気がする。

 それも香港らしいのだが「原作、脚本は日本だから、監督は香港ネ」くらいのノリで進んで行き、後に言葉の問題でも苦労するのだが。製作費の折半が、どこまでも付き纏う。

 原作は「孔雀」と呼ばれた1人の男が主人公だが、映画では既に2人の主演俳優がいる。そこで突然、二人は生き別れていた兄弟の設定になる。これは原作には無い。 脚本は日本人なので日本語で書く。それを香港側は中国語に訳す。日本語のシナリオでは兄弟は日本語を話す。さて、ユン・ピョウは何語で撮影に臨むのか……。

▲『孔雀王 アシュラ伝説』香港公開版では、ユン・ピョウが孔雀を、阿部寛がコンチェを演じたバージョンが公開されている。『孔雀王』の製作中に、筆者は悪性肉腫で左足を一部切除し松葉杖に。ユン・ピョウは撮影の最初の段階のアクション・シーンで、骨折。日本での撮影時の変なツーショットとなった。



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