21.05.25 update

「白い巨塔」財前五郎役が忘れられない俳優・田宮二郎

プロマイドで綴るわが心の昭和アイドル&スター

企画協力・写真提供:マルベル堂

大スター、名俳優ということで語られることがない人たちかもしれないが、
青春の日々に密かに胸をこがし、心をときめかせた私だけのアイドルやスターたちがいる。
今でも当時の映画を観たり、歌声を聴くと、憧れの俳優や歌手たちの面影が浮かび、懐かしい青春の日々がよみがえる。
プロマイドの中で永遠に輝き続ける昭和の〝わが青春のアイドル〟たちよ、今ひとたび。

※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

©マルベル堂

 1978年(昭和53年)12月28日、俳優・田宮二郎の自殺が、ニュース速報で伝えられた。僕は友人と喫茶店にいたが、この速報に喫茶店の中がざわめいたことは、昨日のことのように憶えている。射撃用の散弾銃による猟銃自殺である。銃口を口にくわえ、足の指で引き金を引いたという。それを聞いたとき、ある映画のシーンを思い出した。山崎豊子の小説を山本薩夫監督が映画化した『華麗なる一族』(1974年)で、仲代達矢演じる万俵一族の長男・鉄平の猟銃自殺のシーンそのものだった。田宮も万俵家の長女・一子の夫で大蔵省主計局次長の美馬中(みま あたる)という野心的な男の役で出演していたが、もしかすると、田宮が演じたかったのは鉄平の役ではなかったのだろうかと、そのとき感じたことが思い出される。自殺したときには、連続ドラマ「白い巨塔」の放送が2話残されていた。キネマ旬報1位に輝いた映画版でも主役を演じ、財前を演じるのは自分しかいないと、原作者である山崎豊子に直談判してまでテレビでのドラマ化を実現させ、作品の評判も上々で、視聴率という数字の上でも好調のドラマだったのに、なぜ? 多くの人々がそう感じたに違いない。ただ、撮影終了後に「財前五郎の後に、どんな役を演じていいかわからない」とも親しい人には漏らしていたというから、全身全霊をその役に打ち込んで演じきった後に、心に隙間ができたのかもしれない。勝手な想像である。そういえば、『女の勲章』『女系家族』『不毛地帯』など、山崎豊子原作の映画によく出演していたことも思い出される。

 雑誌の編集の仕事をしていると、多くの俳優、女優さんたちと会うチャンスも多いが、自らサインを求めることはほとんどない。田宮二郎は、僕が初めてサインをもらった俳優としても、僕の思い出の中に存在する。僕がまだ編集の職に就く以前のことである。当時、田宮は、若尾文子、岡田茉莉子と共演した映画『不信のとき』(1968年、今井正監督)の宣伝ポスターの序列に異議申し立てをしたことで、所属の大映を解雇され、事実上映画界を締め出されたような状況だったが、クイズ「タイムショック」の初代司会者を務めており、ソフトで洒脱なたたずまいと、軽妙な話術でお茶の間には好感を持って招かれていた。サインを求めたときも、笑顔で応じてくれ、何の勉強をしていますか、などと訊かれたことが忘れられない。渡辺淳一原作『無影燈』をドラマ化した「白い影」(倉本聰も脚本を担当)が放送されていた時期で、田宮は影のある外科医を演じ、人気と高視聴率を得ていた。以降、田宮二郎主演のドラマは〝白いシリーズ〟として「白い滑走路」「白い地平線」「白い秘密」などが作られ、山口百恵と宇津井健共演の〝赤いシリーズ〟と共にTBS金曜の人気ドラマだった。

 田宮二郎と言えば、映画『黒シリーズ』や『白い巨塔』や、山本陽子、松坂慶子、浅丘ルリ子共演のテレビドラマ「白い滑走路」などの役柄から、あるいは仕立てのいいイタリア製のスーツを着こなすモデルのような出で立ちから、ダンディでクール、甘い二枚目、もしくは冷酷なエリートといったイメージを持つ人が多いだろう。もちろん、そこが俳優・田宮二郎の本筋かもしれないが、僕の好きな田宮二郎は勝新太郎と共演した『悪名』シリーズで演じた〝モートルの貞〟だ。1961年から全16作が製作された人気シリーズで、勝新が演じる任侠の親分と、ドライな田宮とのコンビの対照的なキャラが絶妙だった。貞はシリーズ2作目で死んでしまうが、田宮は3作目からは貞の実弟・清次役で登場。大阪生まれで、大阪や京都で育った田宮の関西弁は小気味よく、スカジャンを着てちょっとインテリぶったチンピラのユーモラスな軽妙さを、嬉々として演じていたような気がする。

 田宮の死に際して、勝新太郎がマスコミに語った「さぞ背伸びして、どれほど苦しんだか」という言葉が、苦しい胸の内をさらけ出せずに死んでしまった田宮の孤独を語っているようで、悲しく響く。人前では弱い部分を決して見せない田宮二郎という俳優を演じる枷を自分にはめていたのだろうか。根っこの部分では、人が好きで、人懐っこい、優しくて寂しがり屋の甘えん坊だったのかもしれない。インタビューしてみたい俳優だった。

文:渋村 徹(フリーエディター)

プロマイドのマルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F

読者の皆さまへ

あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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