西城秀樹の“ブーメラン”ファンも泣いた、出棺とともに流れた「ブルースカイ ブルー」

「今はわからないだろうが、大人になったときこの歌詞の意味がわかるよ」と、阿久悠はこの曲をヒデキに送ったという。78年のレコード大賞・金賞、歌謡大賞の放送音楽賞、FNS歌謡祭の最優秀歌唱賞を受賞した。奇しくも、ヒデキがファンに見守られ旅立ったその日も突き抜けるような青い空が広がっていた。阿久悠が言ったのは、単なる男女の別れではない。「青空よ 心を伝えてよ 悲しみはあまりにも大きい……さよならと」という歌詞にはレクイエムの想いが込められているのではないかと、ハッとした。

 79年2月には、「YOUNG  MAN(Y.M.C.A.)」をリリース。Y、M、C、Aとヒデキのポーズにあわせ、舞台と客席が一体化し、街で踊る子どもたちもよく見かけた。歌番組の「ザ・ベストテン」では、2週にわたって、最高得点「9999点」をたたき出すという前人未到の快挙を遂げた。
 思い起こせばヒデキの活躍は歌手のみではなかった。某食品メーカーのカレーのCM「ヒデキ、感激!」のキャッチコピーは印象的で、大人の食べ物だったカレーは子どもたちにも愛されるようになり、カレールーは昭和の家庭の常備品になった。TBSで高視聴率を誇っていた「寺内貫太郎一家」で、小林亜星演じる貫太郎の長男、周平役。映画『愛と誠』の太賀誠役も忘れがたい。などなど次々にヒデキが思い浮かんでくる。

 不謹慎ではあるが、改めてヒデキの魅力に気づいたのは訃報からで、YouTubeやCDでヒデキの曲を聴き直したからだ。こんな私のような回帰ファンを、ヒット曲「ブーメラン ストリート」になぞらえて、〝ブーメラン型〟というのだそうだ。

 妻・木本美紀さんの『蒼い空へ 夫・西城秀樹との18年』によると、結婚直後の2001年に韓国の済州島で、11年に再発と二度の脳梗塞の発症は知られているが、隠れ脳梗塞も含めると8回も発症していたのだ。脳梗塞だけではない。糖尿病や目の前がクルクルまわる原因不明の病気から、転んで怪我をして救急車で運ばれたこともあった。難病の多系統萎縮症という脳神経系の疾患でいまだ治療法も確立していない珍しい病気も発症していた。最初の発症の時に、水分不足を指摘され、強迫観念のように水を飲まないではいられなくなったヒデキは水中毒になっていた。健康な人が飲む一日2ℓを4ℓも飲んでしまい、血中のナトリウムの濃度が極端に低下する「低ナトリウム血症」と診察されたという。
 二度目の脳梗塞の後遺症で右半身の自由がきかず、週3~5日、一回3時間、本人も「キツイ」と言いながら休むことなくリハビリに通い続けたのは、ステージでの完全復活を目指していたからだった。もう一度ステージで「YOUNG MAN」を歌いたいという執念だった。15年には還暦コンサートで見事それを果たした。還暦記念アルバム『心響-KODOU-』には、新曲「蜃気楼」が収録された。会話もままならないのに、歌うとそんな障害も感じさせないほど堂々として力強い。その気迫に涙が出た。

 ブーメラン型のファンがいれば、デビューから一筋に応援してきた〝一直線型〟、加えてヒデキの生前の活躍をあまり知らない〝新規発生型〟と言われるファンもじわじわと増えているという。〝ヒデカツ〟〝ヒデ友〟なる言葉も生まれているのだ。こんな現象も珍しいのではないだろうか。ヒデキは稀代のアイドルスターで、今でも多くの人を魅了し続けているのだ。

 最後に言いたい。「青空よ、ヒデキに伝えて欲しい。ありがとう」と。

文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫

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