1976年日本レコード大賞の大衆賞を受賞し、号泣した姿が忘れられない 郷ひろみ「あなたがいたから僕がいた」

 レコード大賞、最優秀歌唱賞、歌唱賞の対象となる76年の大賞候補曲ベスト10には、大賞に輝いた都はるみの「北の宿から」、最優秀歌唱賞を獲得した八代亜紀の「もう一度逢いたい」をはじめ、研ナオコ「あばよ」、梓みちよ「メランコリー」、山口百恵「横須賀ストーリー」などがすでに発表されていた。そこには野口五郎「針葉樹」、西城秀樹「若き獅子たち」の名前もあった。五郎、秀樹共にたびたびベスト10に選ばれていたが、郷ひろみが選ばれたことはなかった。そしてこの年の歌唱賞を、研ナオコと共に五郎も秀樹も受賞した。五郎は2度目、秀樹は3度目の受賞だった。

 郷ひろみの号泣の理由の一つには、やっと歌手として認められた、歌手としてレコード大賞の常連組であった五郎、秀樹と肩を並べることができたとの思いが募ってのことだったのではないだろうか。そして、ファンのみんな=あなたがいてくれたから今の僕が存在している、と支え続けてくれているファンへの恩返しができたような安堵感もあったのではないだろうか。レコード大賞で、ひろみ、五郎、秀樹の新御三家がそろって受賞したのは初めてのことだった。出場4回目となるこの年の紅白で、郷ひろみは「あなたがいたから僕がいた」を歌唱した。

 そして、99年にはリッキー・マーティンの大ヒット曲「Livin’ La Vida Loca」をカバーした〝あ・ち・ち〟でおなじみの「GOLDFINGER ‘99」をリリースしヒットさせ郷ひろみの健在ぶりを見せつけた。日本有線大賞の有線音楽優秀賞(ポップス)を受賞し、日本レコード大賞で、五郎も秀樹も成し得なかった最優秀歌唱賞に輝いた。ちなみにこの年の大賞はGLAYの「Winter、again」だった。若手のミュージシャンたちの台頭により、音楽の傾向も変わりつつある時代の流れにあって、44歳の郷ひろみが、しかもポップス系の曲で最優秀歌唱賞を受賞したことは、特筆に値する。デビュー27年目にしての快挙と言えるだろう。大晦日の紅白でもこの楽曲を歌っている。また、2018年の紅白でも新たなアレンジで「GOLDFINGER‘99~GO!GO!2018~」として披露している。

 紅白と言えば、郷ひろみ最大のヒット曲である「よろしく哀愁」を、単独ナンバーとして歌っていないことに、いささか驚きを感じる。「よろしく哀愁」が紅白で歌われたのは、2020年の「筒美京平トリビュートメドレー」としてであった。「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」は7回も歌っているのだが。36回目の出場となった2023年の紅白では、名前も知らないミュージシャンが多く出場する中、せめて郷ひろみには、じっくりと「あなたがいたから僕がいた」を聴かせてくれないものかと、あるいは、「よろしく哀愁」とのメドレーで聴きたいと期待していたのだが、披露されたのは昨年もまた「2億4千万の瞳~ブレイキンSP~」というものだった。

 なんだかんだと文句をつけながら、それでも、ついつい見てしまう紅白歌合戦。昭和世代にとって紅白歌合戦は、やはり年越しの風物詩であり、家族の団欒に欠かせない番組なのである。テレビ離れをしてしまっている若い世代のことを気にかけるのもいいが、テレビが大好きなシニア世代も楽しめるように、バランスをとって昭和歌謡の旗手たちの出場枠をもう少し増やしてもらえないものだろうか。私見で言えば、紅白はじっくりと歌を聴くコンサートではなく、年越しのお祭りだと思っている。今のままでは、民放でも頻繁に企画されている、最近のミュージシャンばかりを集めた、いずれの局でやっても同じような「〇〇〇歌謡祭」などといった番組と何も変わらない。

 ついでに言えば、顔出しNGの歌手が出場するのも個人的には腑に落ちない。中継もなくていい。やはり、幅広い音楽ジャンルの出場歌手が、普段のテレビ番組ではなかなか実現しない同じステージに一堂に会するが見たいのだ。それこそ、国民的番組としてのさすが紅白ならではである。紅組、白組が交互に歌い、後半戦になると攻守入れ替えというのもよかった。いつの頃からか、〝特別枠〟というものが設けられ、誰が紅組か白組かもわかりづらい。

 毎年、ディズニー企画があるのは何故なのだろう。紅組・白組それぞれにバンドがいて、オープニングでは出場歌手の入場行進があり、ステージ左右の紅白陣営に出場歌手全員が座っていた、あの紅白が懐かしい。時代の傾向について行けない年寄りの愚痴だろうか。まさに、〝紅白危篤〟といった状況である。

 と文句を並べながら、毎年紅白を観続けるのだろう。気の早い話だが、今年も郷ひろみが出場するのであれば、ぜひとも「あなたがいたから僕がいた」を歌ってほしいものだ。

文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫

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