後れてリリースされたのが7枚目のシングル「白いギター」(作詞・林春生、作&編曲・馬飼野俊一)である。好きな男性の小さな行動の変化にも気になる、そんな恋する女性の心情をしっとり描いている。エッちゃんの高音の響きがきれいで、それを邪魔しないように松崎のハモリが旋律をさらに引き立てる。「白いギター」は、73年の「第15回レコード大賞」歌唱賞を受賞した。
「白いギター」で思い出すのは、テレビドラマ「時間ですよ」の中で、堺正章が思いを寄せるとなりのマリちゃんを演じる天地真理が2階の窓辺で白いギターでの弾き語りしていた姿だ。「恋はみずいろ」を歌ったが、「あの娘はだれ?」と問い合わせが殺到したとか。私もマリちゃんみたいに白いギターが弾けたらと憧れたものだ。
今回、「白いギター」をはじめ、一連のチェリッシュの曲を聴き直してみた。作詞で一番多いのは、シングル48曲中、「白いギター」「ひまわりの小径」をはじめ14曲を制作した林春生である。林はフジテレビで「ザ・ヒットパレード」「新春かくし芸大会」「ミュージック・フェア」などを手がけるプロデューサーだった。義兄である作曲家のすぎやまこういちに作詞を勧められ、チェリッシュの他にも欧陽菲菲の「雨の御堂筋」、キャンディーズの「ハート泥棒」、浅田美代子の「想い出のカフェテラス」など多くの楽曲を提供している。林春生(本名・林良三)は、作詞家としてのペンネームだという。驚いたのは国民的アニメ「サザエさん」のオープニング曲もエンディングの「サザエさん一家」も、林が作詞しているのだ。作曲はともに筒美京平である。なんと多才なことだろう。新鮮な驚きと発見だった。
チェリッシュの二人は77年に結婚。その後夫婦デュオとして、日本歌謡史を代表する作曲家・吉田正の作品を、アメリカを代表するミュージシャンと共演しレコーディングするなど、海外でも活躍した。子供たちが巣立った現在、チラシが物語るように70年代に活躍した歌手たちとともに全国各地でコンサート活動をしているのだ。親しみのある歌声が多くの人に響き、フォーク・ポップスの世界を築いてきたチェリッシュ。これからも全国津々浦々に響かせ、元気を届けて欲しいと思う。
文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫