24.08.22 update

奇才・角川春樹の映画進出とともに誕生した角川3人娘、薬師丸ひろ子、渡辺典子、原田知世。中でもユーミン作詞作曲「時をかける少女」歌う可憐な原田知世が忘れられない

「読んでから見るか、見てから読むか」というコピーがあるが、私の場合は「聴いてから見て読む」だった。その典型が原田知世のデビュー作となった『時をかける少女』である。筒井康隆のSF小説を大林宣彦監督、音楽は松任谷由実、松任谷正隆が担当した。主題歌の「時をかける少女」を原田知世が歌う。ファンタジックな曲を少女らしい透明感のある声で、伸びやかに歌っているのが印象的だった。映画の公開が83年7月で7月14日放送の「ザ・ベストテン」では、3位にランキングされた。ちなみに他の曲は、10位が「シャワーな気分」(田原俊彦)、9位「初恋」松下孝蔵、8位「天国のキッス」(松田聖子)、7位「悲しい色やね」(上田正樹)、6位「僕笑っちゃいます」(風見慎吾)、5位「め組のひと」(ラッツ&スター)、4位「エスカレーション」(河合奈保子)、2位「トワイライト」(中森明菜)、1位「探偵物語」(薬師丸ひろ子)である。

原田知世いいよなぁ」という友人に連れられ映画館にいったが、中学高校生たちが客席を埋めていた。原田知世演じる芳山和子が理科の実験室でラベンダーの香りを嗅ぎ倒れてから、奇妙なタイムスリップ現象に襲われていく。西暦2660年からきたという同級生の深町一夫に淡い恋心を抱くのだが、一夫は元の場所に戻ってしまう。見終わってから書店によって文庫本を買った。今から思えば「見てから読む」のコピーを実践していたのだ。

 今回久しぶりに、『時をかける少女』を配信で見た。グレーのブレザーの制服を着た原田知世、同級生の(堀川)吾朗ちゃんを尾美としのり、深町(一夫)くんを高柳良一、国語の福島先生を岸部一徳が演じているがみんな若い。その中でも現在は父親役などで存在感を発揮する尾美としのりが溌溂としていた。上原謙、入江たか子が深町くんの祖父母としてほんの少し画面に映ったがさすがに風格がある。そして主要場面をバックに「時をかける少女」を歌う原田が最後に映し出されるのだが、今の時代にこんな高校生いるだろうかと思えるくらい純粋で可憐だ。

 その後『時をかける少女』は、97年には中本奈奈主演、角川春樹監督で公開され、2010年には仲里依紗主演で角川映画、06年には細田守監督がアニメ映画として公開。テレビドラマや舞台でもリメイクされ世代を超えて『時をかける少女』は愛されている。原作者の筒井康隆にとっては、親孝行な作品だ。

 薬師丸ひろ子は85年、原田知世と渡辺典子は86年に角川春樹事務所から独立したが、現在も変わらず第一線で女優としても歌手としても活躍している。角川春樹は彼女たちに続く女優を見出そうとはしなかった。オーディションのとき、薬師丸ひろ子は、岩崎宏美の「思秋期」を歌い、原田知世は大橋純子の「サファリ・ナイト」を歌ったという。角川はきっと二人の歌声を聴いたとき、「いい女優になる」と閃いたのではないだろうか。私にとっても角川映画が勢いのあった10年は、思い出深い濃い年月だった。

文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.10.10
    森美術館「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰って来...

    応募〆切:10月31日(木)

  • 2024.10.10
    戦後日本映画界に颯爽と現れるや時代のヒーローとして...

    石原裕次郎「赤いハンカチ」

  • 2024.10.09
    都会の喧騒に佇むゲストハウスに集う人々の心温まるヒ...

    応募〆切:11月5日(火)

  • 2024.10.09
    10月14日の「鉄道の日」をはさんで、海老名のロマ...

    10月9日(水)~11月18日(月)

  • 2024.10.09
    女優・高峰秀子生誕100年、ウェディングドレス姿が...

    10月5日(土)~1月13日(月・祝)

  • 2024.10.08
    釈放当日─世紀の瞬間の舞台裏を撮った、1台のカメラ...

    応募〆切:10月20日(日)

  • 2024.10.08
    東京ステーションギャラリー「テレンス・コンラン モ...

    応募〆切: 10月31日(木)

  • 2024.10.08
    秋バラが間もなく見ごろを迎える「谷津バラ園」 谷...

    京成電車下町さんぽ「谷津」

  • 2024.10.07
    「世界の持続可能な観光地TOP 100選」第1位の...

    箱根彩彩

  • 2024.10.03
    令和の今もコーラスで親しまれるH2Oが昭和58年リ...

    H2O「想い出がいっぱい」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!