new 24.10.03 update

令和の今もコーラスで親しまれるH2Oが昭和58年リリースした「想い出がいっぱい」を作詞したのは、山口百恵、中森明菜、郷ひろみ等にも楽曲提供した、阿木燿子だった

 知人が小学生の合唱サークルの指導をしていて、コンクールに出場するという。誘われて客席で鑑賞する機会に恵まれた。そのなかであるグループが歌っていたのが、いつ聴いてもサビの歌詞に胸がキュンとなってしまう「想い出がいっぱい」だった。ピアノの演奏に合わせてからだをスイングさせ、目を見開き、口を大きく開け、歌うことが楽しくて仕方がない、そんな表情豊かな子どもたちの姿に目頭が熱くなってしまった。と同時に、小学生の頃からこんなに夢中になれるものがある子どもたちが羨ましくなった。H2Oという男性二人のフォーク・デュオの歌った「想い出がいっぱい」は1990年代になって中学や高校の音楽の教科書に載るようになり、こうして次の世代に歌い継がれているとは、何と素晴らしいことか! すっかり忘れていた名曲だが、誕生した背景など顧みたくなった。

 

 メンバーの赤塩正樹と中沢堅司は中学校の同級生で、大学在学中に本格的な活動を始めた。グループ名はいろいろ候補があったようだが、「化学反応起こしたい」という思いも込めて「H2O」とした。アミューズの所属になり二人で作詞・作曲した「ローレライ」が1980年7月に東宝系で公開された『翔んだカップル』の挿入歌となってデビュー。映画『翔んだカップル』は、相米慎二監督にとっても初監督作品で、薬師丸ひろ子、鶴見辰吾も初主演、石原真理子もこの作品でデビューした。そして同年11月にはテレビ版「翔んだカップル」が桂木文主演で放映され、シングル2曲目の「僕等のダイアリー」(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお、編曲:星勝)がエンディングテーマ曲に起用された。映画、テレビの人気に乗じて、スマッシュヒットを果たしたが、その後自作の曲をリリースするも話題にならず忘れられた存在になっていた。

 そこで低迷から脱却すべくシングル5曲目の「想い出がいっぱい」(1983年3月25日)をリリース。しかし、それはシンガーソングライターを自負する二人の作った曲ではなく、プロの作詞作曲家によるものだった。同時に83年3月からは、あだち充のラブコメ漫画「みゆき」がテレビアニメ化され放映されることになると、「想い出がいっぱい」はエンディングテーマ曲となり大ヒット。歌番組の「ザ・ベストテン」の「今週のスポットライト」に出演すると、翌月にはトップテン入りし、H2Oも全国区になっていった。レコードジャケットは、「みゆき」のイラストとH2Oの写真が表裏一体となったもので、アニメコーナー売り場に設置されたことも功を奏して、累計40万枚を超える売り上げを記録した。

 

 「想い出がいっぱい」の作詞は阿木燿子、作曲は鈴木キサブローによるものである。初めて聴いた頃は、幸せを夢見る少女には幸せを運んでくれる王子様が現れる、魔法にかけられたような心地良さでいっぱいだった。けれども歳を重ねていくと現実はそんなものではないことを身に沁みるのだが、夢と現実の世界を優しい詞で綴ったのが阿木燿子だったことに驚かされたのである。

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