24.12.12 update

作曲家・筒美京平がオリコン週間1位を初めて獲得した出世作で、日本レコード大賞作曲賞を受賞した〝横浜〟のご当地ソングの決定版 いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」

 「ブルー・ライト・ヨコハマ」以降、「涙の中を歩いてる」「今日からあなたと」「喧嘩のあとでくちづけを」「あなたならどうする」「昨日のおんな」「何があなたをそうさせた」「止めないで」「砂漠のような東京で」「おもいでの長崎」「さすらいの天使」「生まれかわれるものならば」「渚にて」「幸せだったわありがとう」「時には一人で」など、次々とヒット曲を出し、「夜のヒットスタジオ」をはじめとする歌謡番組の常連となった。

 73年の映画『日本沈没』あたりから女優として演技力が高く評価されるようになり、『青春の門 自立編』(報知映画賞助演女優賞、日本アカデミー賞優秀助演女優賞)、高倉健の元妻役で、動き出した汽車の中で笑って敬礼をするその目に涙があふれる印象的なシーンが観客の心に刻み込まれた『駅 STATION』(日本アカデミー賞優秀助演女優賞)、マドンナを演じた『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』(『野獣刑事』とあわせて日本アカデミー賞優秀主演女優賞)、緒形拳の妻を演じた深作欣二監督『火宅の人』(『時計 Adieu l’Hiver』とあわせてブルーリボン賞主演女優賞、毎日映画コンクール女優主演賞、報知映画賞主演女優賞、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞)など、再び女優業に比重を置くようになった。

 テレビドラマでも、萩原健一と共演した「祭ばやしが聞こえる」をはじめ、「事件」、「恋人たち」、「金曜日の妻たちへ」、NHK連続テレビ小説「青春家族」「春よ、来い」「芋たこなんきん」など多数の作品に出演。特に「だいこんの花」、「冬の運動会」、「阿修羅のごとく」、「源氏物語」などの向田邦子脚本作品や、「川は泣いている」、「北の国から」、「やすらぎの刻 道」などの倉本聰脚本作品で輝きを放っている。

 
 歌手活動としては、77年に、ティン・パン・アレーと共同制作をし、「いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー」名義でリリースしたアルバム『アワー・コネクション(Our Connection)』でのニューミュージックテイストのシティ・サウンドで聴かせる歌唱が評判を呼んだ。

 
 96年に、〝夏の紅白〟とも呼ばれていたNHK思い出のメロディで久々に歌手・いしだあゆみとして出場した。この年は、〝ニッポン歌謡黄金時代〟をテーマに昭和40年代の曲を中心に放送されただけあって、田端義夫、松山恵子、舟木一夫、森進一、加山雄三、布施明、五木ひろし、黛ジュン、ピンキーとキラーズ、鶴岡雅義と東京ロマンチカ、藤圭子、ジェリー藤尾、ワイルドワンズ、南こうせつ、石川さゆりなど27組の多彩な顔ぶれだった。

 いしだあゆみは、白地に花柄のサーキュラードレスというのだろうか、裾にかけて広がりを持たせたドレスで登場。キンキラキンの派手なステージ衣裳ではないところが、この人のセンスというか品性のように感じられた。赤(もしかしたらオレンジ色かもしれない)で統一されたイヤリング、指輪、ブレスレットも、実際には高価なものかもしれないが、まるでプラスチックの子どものアクセサリーのようにも見え、その遊び心がすてきだと感じた。もちろん披露したのは「ブルー・ライト・ヨコハマ」。間奏後に、そのドレスをフワフワさせながら「歩いても 歩いても」と歌う姿が、すばらしくチャーミングだった。ちなみに是枝裕和監督、阿部寛主演の映画『歩いても 歩いても』は、この曲からとったタイトル。また、同じく是枝監督、阿部寛主演の映画『海よりもまだ深く』は、テレサ・テンの「別れの予感」の歌詞からとったタイトルである。

 久しぶりの歌手としてのステージだったためだろうか、最初はやや緊張の面持ちだったが、歌い終わったとき、いしだあゆみの表情に浮かんだ安堵感と満足感が印象的だった。僕は、このときの「ブルー・ライト・ヨコハマ」が一番好きだ。

 
 横浜港が開港150周年を控えた2008年12月から、京急本線の横浜駅で入線メロディとして使用されている。また、横浜港開港150周年の2009年に、横浜市が「横浜市のご当地ソング」のアンケートを募ったところ、2位の童謡「赤い靴」に大きな差をつけて、「ブルー・ライト・ヨコハマ」がダントツの1位だった。たしかに、横浜の街を歩いていると自然と「ブルー・ライト・ヨコハマ」のメロディを口ずさんでいることがある。それにしても、「ブルー・ライト・ヨコハマ」を歌ういしだあゆみは美しかった。

文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫

1 2

新着記事

  • 2025.02.06
    東京・麻布台ヒルズの〈森ビルデジタルアートミュージ...

    オープン1年で155万人以上が来館

  • 2025.02.06
    年度替わりの新生活の買い物は〈京成線 酒々井プレミ...

    3月23日(日)まで発売

  • 2025.02.06
    デビュー55周年、NHK紅白最年長出場の「南こうせ...

    「ラストサマーピクニック in 武道館」が映像と音源で蘇る!

  • 2025.02.06
    2月13日(木)20時~(日本時間)スペシャルライ...

    マニフレックスからのお知らせ!

  • 2025.02.06
    庵野秀明の企画・プロデュースによる「宇宙戦艦ヤマト...

    3月15日(土)~3月31日(月)

  • 2025.02.06
    「山谷ブルース」でデビューした岡林信康は〝フォーク...

    岡林信康「山谷ブルース」

  • 2025.02.05
    <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也...

    藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

  • 2025.02.04
    映画史上初!イスラエルとイラン出身監督の協働による...

    応募〆切:2月25日(火)

  • 2025.02.04
    第28回【キジュを超えて】私の年齢観測─萩原 朔美...

    20代、60代、70代……

  • 2025.02.03
    7才の少⼥の⽬線を通して描かれる学校というリアルな...

    2月27日(木)特別試写会

映画は死なず

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!