24.12.19 update

NHK紅白歌合戦の変遷をたどってみたら、東京宝塚劇場が最後の会場になった昭和47年初出場の石橋正次「夜明けの停車場」が浮かんできた

 毎年視聴率がとやかく騒がれ人気に陰りが出てきたとはいえ、2024年の大晦日もNHK紅白歌合戦が一年の締めくくりの風物詩になるのだろう。本欄を書くに当たって、この一大行事の会場の変遷を調べてみたくなった。というのは、1972年(昭和47)第23回NHK紅白歌合戦の会場は有楽町の東京宝塚劇場で、この年が同劇場での開催の最後となった。同年の大ヒット曲「夜明けの停車場」を歌唱した石橋正次にとって初出場を果たした会場だったのである。〈宝塚〉での開催は、第7回(1956年)から、途中、新宿コマ劇場(第9回・1958年)や日本劇場(第11回・1960年)などに変移があるものの都合15回を数えている。翌年は、完成したばかりの渋谷のNHKホールに移っていくが、最後の〈宝塚〉開催の紅白に初出場した歌い手たちにとっては特別な感慨があるのではないだろうか。

 因みに第1回(1951年)から第3回までは、内幸町にあったNHK東京放送会館、第4回(1953年)は日本劇場、第5回(1954年)は日比谷公会堂、第6回(1955年)は産経ホールと転々としていた。さて、1973年にNHKホールに移ってから、以後第75回を迎える本年まで(2021年の第72回だけ耐震工事のため〈東京国際フォーラム〉で開催)、実に半世紀を超えて都合51回。余談だが、日本レコード大賞の発表会場が1969年から1984年までやはり大晦日の一大イベントとして丸の内の〈帝国劇場〉で開催されていた。確か〈レコ大〉の発表イベントは夕刻から延々と続き、紅白の出場歌手たちは渋谷のNHKホールに到着する時間がギリギリとなって、スターたちを乗せた車は国道246号をすべて青信号にして突っ走ったという都市伝説さえ生まれた。〈レコ大〉出演の衣装のままで紅白の入場行進に間に合った歌い手たちのホッとした表情が今でも浮かんでくるようだ。

 NHK放送センターの建て替えが発表されたが、NHKホールは紅白歌合戦や NHK 交響楽団のコンサートなどを通じて親しまれてきたシンボルだけに建て替えずに修繕を重ねながら維持、運用していくとのことだ。1925年のラジオ放送から数えて100年目の来る2025年を「放送100年企画」と銘打って力が入っているNHKだが、紅白歌合戦の会場は当分NHKホールで開催されてゆくことだろう。

 さて、石橋正次と同様に1972年の紅白歌合戦に初出場した歌手と楽曲は、天地真理「ひとりじゃないの」、朱里エイコ「北国行きで」、野口五郎「めぐり逢う青春」、欧陽菲菲「恋の追跡」、上條恒彦「出発の歌」、沢田研二「許されない愛」、青い三角定規「太陽がくれた季節」、ビリー・バンバン「さよならをするために」、平田隆夫とセルスターズ「ハチのムサシは死んだのさ」…7名と3グループ。昭和47年という時代を思い起こすために書き記すと、総合司会は山川静夫(NHK)、紅組司会・佐良直美、白組司会・宮田輝(NHK)、審査員の面々は、池内淳子、中原誠、森英恵、小林桂樹、中村汀女、井上ひさし、中野貴代、神田好武、真木洋子、輪島大士という顔ぶれだ。審査委員はその年の活躍ぶりや話題になった各界人士が揃って、懐かしく思い起こされる。

 
 
 歌手、石橋正次の名がはっきりとボクの記憶に刻まれたのは、やはり1972年の紅白歌合戦なのである。失礼ながら、それまでテレビ・ドラマの脇役としての顔しか知らなかった。不良少年的感性もあって青春ドラマで人気が出た石橋正次は、大阪出身で高校卒業後、新国劇(島田正吾、辰巳柳太郎が長く劇団の支柱で緒形拳もいた)に入団して舞台俳優を目指した変わり種だった。1970年には、藤田敏八監督に見出され、『非行少年 若者の砦』(日活映画)で主演に抜擢され、劇画「あしたのジョー」の舞台劇や映画にも主演に起用されている。しかし、早くから子役でデビューし、先般惜しまれて亡くなった火野正平とダブっていた時期がボクにはあった。微かな記憶とお門違いの観察だったが、一歳違いでお互い小柄のせいもあり、時代劇などの役柄も似通っていたのではないか。ところが、歌手としての実績も知らなかった石橋正次が歌唱する「夜明けの停車場」(作詞:丹古晴己、作曲:叶玄大)がクラウン・レコードからシングル(1972年1月25日)がリリースされると、またたく間にオリコン・ランキングで3週連続1位、年間売り上げ第11位、50万枚近くの大ヒット曲となったにもかかわらず、当時から浮名を流して週刊誌を騒がせていた火野正平が歌うなら、さもありなん、と一人合点していたのだ。「モテ男」の別れ話の楽曲と思い込んでいたとは、勘違いも甚だしい。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2025.01.23
    シングルマザーの女性と、記憶を失っていく男性の心に...

    2/12(水)トーク付試写会

  • 2025.01.23
    稀代の音楽プロデューサー・小室哲哉の出世作でもあり...

    渡辺美里「My Revolution」

  • 2025.01.22
    国立西洋美術館『西洋絵画、どこから見るか? ─ルネ...

    応募〆切:3月8日(金)

  • 2025.01.21
    三菱一号館美術館『異端の奇才──ビアズリー』展観賞...

    応募〆切:2月10日(月) 

  • 2025.01.21
    【訃報】アイ・ジョージ91歳、昭和のラテン歌謡をリ...

    アイ・ジョージの訃報に接して

  • 2025.01.21
    華やかでおめでたい作品が会する泉屋博古館東京の「企...

    1月25日(土)~3月16日(日)

  • 2025.01.21
    ニューヨークを拠点に世界で活躍する現代美術家 松山...

    応募〆切:3月5日(水)

  • 2025.01.21
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    1月25日(土)~3月16日(日)

  • 2025.01.17
    3人の愛用者の声を聞く!山田哲人選手、姫野和樹選手...

    1月20日、22日、23日

  • 2025.01.17
    『大佛次郎と山口蓬春―作家と画家、重なるまなざし』...

    1月21日(火)~4月20日(日)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!