25.05.22 update

ベテラン歌手・朝丘雪路がCBS・ソニー移籍後の第一弾が起死回生の大ヒットとなった「雨がやんだら」は天然キャラに似合っていた?!


 久しぶりに〝天然キャラ〟のお嬢様、朝丘雪路に再会した。映画『男はつらいよ~花も嵐も寅次郎』(1982年12月28日公開)のテレビロードショー。冒頭シーン、行商の旅から葛飾柴又に帰ってきた寅さん(渥美清)が「とらや」の店先で、ばったり幼馴染の女子同級生の桃枝と再会する。ちょっと身持ちが悪そうで色気たっぷりの桃枝役が朝丘雪路だったのだ。デレっとしていちゃいちゃする二人のシーンを観ながら、そういえば、本欄で、沢たまきの「ベッドで煙草を吸わないで」を紹介したが、ボクにとっての青春昭和歌謡をあらためて振り返ってみると、いつも〝年上(年増)の女〟を追っかけていたことが過ぎったのだった。因みに、朝丘雪路は寅さんのマドンナ役ではなく、派手な背広を身にまとった亭主の人見明が登場して、寅と桃枝再会の一幕は終わる。マドンナどころか寅さんが旅先で知り合う、沢田研二と田中裕子の恋愛劇の応援団となっていて、マドンナ不在の「男はつらいよ」だった。

 さて、「ベッドで~」から4年後、1970年(昭和45)10月21日にリリースされいきなりヒットチャートに姿を見せて1971年に大ヒットした朝丘雪路の「雨がやんだら」も忘れられない一曲だった。勿論、大人の色気たっぷりで以前から憧れの年上の女だったのだ。当時、朝丘雪路といえば押しも押されもしないベテラン歌手であり映画・ドラマにも引っ張りだこ。夜の大人向けお色気バラエティー「11PM」の金曜日のレギュラーホステスとして天真爛漫なお色気が人気で、大橋巨泉とのMCコンビは長く続いた。朝丘の胸を〝ボイン〟と言ったのは大橋巨泉で、流行語にもなって〝巨乳女性〟の代名詞にもなった。朝丘の歌手としてのキャリアもすでに定評があった。NHK紅白歌合戦には1957年(昭和32)の第8回に初出場して、1年おいて第10回から第17回まで8回連続出場。さらに5年のブランクを経て1971年「雨がやんだら」で第22回NHK紅白歌合戦にカムバックを果たした。


 そういえば、沢の「ベッドで~」と、朝丘の「雨が~」のヒットには共通している側面がある。二人ともすでに歌謡界のベテランであることには間違いないが、鳴かず飛ばずのテイチクからビクターに移籍した沢たまきは最初のシングル「ベッドで煙草を吸わないで」がヒットして代表曲となった。一方、女優、タレント業はともかく歌手としては低迷気味だった朝丘は、東芝音楽工業からクラウンに移ったものの、「ふり向いてもくれない」(1965年)がスマッシュヒットした程度で、CBS・ソニーに移籍し起死回生ともいえる第一弾のシングルが「雨がやんだら」だった。

 ジャズシンガーとして洋楽スタンダードのカバーを売り物にしていた沢たまきは、お色気歌謡へのイメチェンに成功した。朝丘は、作詞:なかにし礼、作曲編曲:筒美京平によってポップス的なセンスを吹き込まれ濃密な〝別れの歌謡曲〟に明るい色香を横溢させて大ヒットさせたのだ。当時CBS・ソニーの若きディレクター、酒井政利の手によって朝丘は〝再生〟されたと言われている。後に山口百恵等を発掘した伝説のプロデューサーの仕事である。プロ野球選手の移籍後の大活躍をまま見ることがあるが、レコード会社にもベテラン女性歌手を迎えるに当たっては、それなりの〝打つ手〟を用意してのことだったのだろう。

 
 因みに、筒美京平は1969年の第11回日本レコード大賞・作曲賞「ブルー・ライト・ヨコハマ」(いしだあゆみ・歌唱)に次いで、1971年の第13回日本レコード大賞・作曲賞を「雨がやんだら」で受賞。同年の日本レコード大賞は、やはり筒美の作曲による「また逢う日まで」(尾崎紀世彦・歌唱)だった。筒美京平はその後も大ヒットメーカーとして活躍が続くがそれは別の機会に譲ろう。

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